魔王と勇者と暗殺者 第三十七話
安寧の日々は終わりを迎える。
何がかが起こり、何かが始まる。
その中心には進むべき道に沿って男が向かう。
カインは向かう。ただただ。訳も知らず。何を託されたかも知らず。
「お前は、自分の役割がなんだと思っている?」
カインを射抜くような瞳がそこにはあった。妙齢の女性。肩の下まで伸びた栗色の髪色は滑らかに纏うように垂れていた。
似ている。と初対面で思った。だが、カインは口に出す事はしなかった。その無駄な配慮を無視するかのように。カインの目の前にいる女は言葉を紡ぎ出していた。
「まぁ、良いわ。まず、お前が思っている事の半分は正解している。その半分、アンナは私の血族の姿をしているわ。だけれど、あの姿は私ではない。私の娘の姿。それも幼少の頃の姿ね。」
「それを俺に話してどうなる。」
「お前が聞きたがっていたのだろう。」
「……」
「強情な奴だな。気に入らない。だが、良い眼をしている。お前は確かに適合者にて、選ばれた者よ。」
「勝手だな。」
「あぁ。勝手だ。たかだが殺し屋一匹。その勝手でどうなろうと世界は困らない。何も変わらない。だが、お前が動かねば世界は変わる。今度こそ。止まった時が動き出し、混沌へと世界を突き落とす。」
「何を言っている。」
「お前には魔王に会ってもらう。」
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