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真・恋姫†無双<張来来。外史へ>

真・恋姫†無双<張来来。外史へ>

原作で遊んだ事ないのですが、他者様の作品を読みまして、なんというか。書きたくなって、勢いで書きまして。ご覧のように未完にて力尽きました。

でも書いていて結構楽しかったです。

一応プレイ動画見たのですが、長すぎて断念。ノベルゲームはこんなに長い作品になるのですね。予想以上のボリュームでした。

力尽きましたが、元気があって、設定とか完結までの道筋が見えてきたら長編にするかもしれません。

張遼はコーエーの三国志Ⅸを基盤としてその上に三国無双を乗せている感じです。キャラの性格。口調、ゲーム設定云々も適当です。深く考えずに。突っ込まずに。

誤字脱字。表現の不備があるかもしれません。悪しからずご了承ください。


何時ものように、だらだらと過ごす日々。もう、あの頃には戻れないのだろうか。
我らの主が我らを操る事が無くなって久しく時が流れたであろうが、我らの時は止まったままである。

「おぉ。張遼殿。我が君がお呼びだそうだ。何でも全員を集めてらしい。」

「珍しいものですな。管夷吾殿。」

管夷吾殿は元々、この時代設定の人間ではない。もっと過去に生きた人である。だが、我らの主が古の名をエディット武将として登録したことによって作られた一人だ。

私は、管夷吾殿と共に、我が君の元へと急いだ。

着いてみると主要な将が揃っていた。空いている席に座ると我が君が現れて、玉座に座られた。

「今回、皆を集めたのは他でもない。我らの現状の事だ。」

辺りは水をうったように静まり返った。

本来であれば、騒ぎ立てる者が多いのがここの将達のはずであったが、此度の議題。それほど重きものである事は皆が承知している事であった。

「我らの主がこの世界を動かす事が無くなって久しい。厳しい事かも知れぬ。主は飽きたのではないだろうか。」

その言葉を聞いた瞬間に管夷吾殿が机に右手を振り下ろし、重く地響きにも聞こえる音が鳴った。

本来、管夷吾殿は武将ではない。文官であり、優秀な政治家である。その管夷吾殿がここまで怒りを露わにする事は珍しい事であった。

「元はといえば自業自得ではないか!縛りプレイがしたい等と申して、初心者モードのエディット武将大量陣営でしかクリアしていない主がいきなり、上級者の<イフ>シナリオで始めるなどと…!しかも、エディット武将を起用している時点で大した縛りでもないだろうに……!!」

「こちらはいにしえ武将にエディット武将が居るにしても、主は戦略性を理解しておらなんだ…。1武将1万程度の軍を大量投入すればいいものを……。」

「言うな!もう、何も言うな。」

管夷吾殿の言葉を皮切りに各々の不満が漏れていく。確かに、我らの主は戦い方をまったく知らなかった。

「静まれ。主の事は良い。事実を受け止めなければならない。」

「我々はこれからどうすれば良いのだろうか。」

「主は常々言っておった。三国無双。恋姫無双。これらの名を言っておっただろう。」

「もしや。それは……。」

「うむ。推察ではあるが、それらをやりこんでいるために我らの時は止まったままなのだろう。」

「聞いた事があります。三国無双は、張遼殿と言ったような武将が一騎当千となり、雑兵を叩き斬り、諸葛亮がびーむなる怪しい光で持って敵を蹴散らすと。」

「びーむなる怪しい光……なんと奇怪な……。」

「ですが、それらに満足したのなら。」

「望みはまだある。各々、腐らずに過ごして欲しい。」

「はっ!」

我が君は、人格者である。

我らの主が真剣に能力を考えたらしいのだが、その苦労の甲斐あってか民を思い、部下を慕ってくださる。

私は元々、呂布殿の陣営であったが、初心者モードの時に登用され、甚く気に入られ、上級IFシナリオでは序盤から大量の将が登用に来られ、確か52人目程度で私は折れた。

降って見ると、50名を超える将を抱えているために財政は赤字で都市を占領していかなければ自壊するほどの危うさを持つ陣営であった。

今となっては良き思い出である。あの頃は兎に角、必死で戦った。でなければ給金は出ない上に、兵糧赤字で餓えてしまうからであったのだが。

それでも、血が滾り、我が武を存分に奮う事ができた。

あの頃のような興奮を得られないのだろうか。完結もバッドエンディングしか経験していない。

もし良き、終わりを向かえられてからなら。

悔いは無かっただろう。

我らの主。

……私は

私は――――

その呟きとともに、私は光に包まれた。

************

「ここは何処だ?」

視界が眩い光に遮られ、下馬する際に感じる僅かな浮遊感を、此度は無性に長く感じ取っていた。

暫くして光が消えて視界がはっきりとしてくると、今まで室内に居たはずの私は広大な大地に足を付け、手には我らの主が関羽殿から没収して授けてくれた青龍偃月刀を握っていた。

関羽殿には本当に申し訳ない事をしたと思うのだが、今となってはもうどうする事もできまい。

空は青く、雲は白く流れては形を変えていくその様に私は驚いた。

動いているのだ。止まっていたはずの世界が。今再び動き出している。

この事実が不覚にも私の涙を誘った。

これが夢であったとしても構わず、この一時の流れをしかと胸に刻みつけよう。

瞼を閉じた。ゆっくりと全てを噛み締めながら。そして世界の終わりを見る。はずであった。

「これは……真の事なのか。」

世界は変わらず、流れては姿を変えていく。本当に動いている。だが、その事を知ると私の中には感動よりも、不可思議な思いが溢れてきていた。

一体、何が起こっているのか。我が身に一体何が。

膝を折り、大地を手で触れると小さく肉を刺す砂利の心地良さもあり、土の匂いも感じられる。何より、風が私の頬を撫でる。

これが、事実であるとするならば、この世界は一体何なのだろうか。

少なくとも、私の存在していた三国志Ⅸという世界(ゲーム)ではない。

何より、操られている感覚がないのである。元の世界では我らの主が文字通り我らの行動を決定していた。それに逆らう事はできない。

時が動いている限り、我らはその通りに行動していたのである。だが、今はどうか。世界が動いていながらも私を縛るものは何もない。

これを不可思議と呼ばずしてなんと言えば良いのだろうか。

混乱する私ではあったが、遠くより砂塵を撒き散らしながらこちらに迫ってくるものを捉える。

我が身を揺らすその砂塵の煙からして数十の騎馬は居るであろうと考えつつも、万事に対処する必要があった。

相手の風体には見覚えがある。

黄布を纏う一団を一つ。知っている。

残党の可能性をまず捨てる。反乱を捨てる。時期が違いすぎる。元の世界(ゲーム)では群雄割拠が設定になっていたために上級者モードでは乱はなかった。

ならば、ここは新しいシナリオなのだろうか。新しく我らの主が……。だが、このような単騎で軍勢と当たる事などありはしない。

そのような設定はないのだ。

だとするならば、ここはやはり別の世界(ゲーム)と考えるのが適当であろう。

身体は動く。我が武を奮うには何ら不満はない。確かめる意味合いを込めて、私は賊と対峙した。

「なんだぁ?てめぇは。」

騎馬隊の先頭に居た男が私を見下ろす。

奇異の色が強い。多少の警戒はしているようだが、数の利からか、何処か抜けている気配であった。

「お前達に聞きたい事がある。お前達は黄布賊で相違ないか。」

「あぁ?てめぇ。何言ってんだよ。見てわからねぇの?」

「アニキ。こいつかなりいい物持ってやすぜ。」

「おい。その得物と身ぐるみ寄こすならよ、俺は慈悲深いんだ。命だけは盗らないでやるぜ?」

その言葉と共に、下種な笑い声が響き渡る。

やはり、私の知る者達ではなかった。

私の知る彼らは賊の役割を果たす律儀な者達ばかりであったからだ。このような見も心も腐りきった輩ではなかった。

故に、ここが別世界である事を理解する決意ができたようなものだ。

「この戟。軍神より貰い受けた物故に、お前達のような畜生よりも下種な輩に握らせるわけにはいくまい。」

「なんだとこらぁ!」

「ほざきやがったな!こちとら騎馬20に歩兵100も居るんだぜ。てめぇに何ができんだよ!」

正確に数を把握しているという事は、末端の賊ではないという事だろう。それなりの将の配下。これは、人数から見ても先遣の意味合いが強いようだ。

騎馬の機動力を生かした斥候と突撃隊を有し後続の歩兵が蹂躙、あわよくばこの人数で制圧。

いや、小さい村であるならば容易だろう。

私はその事を察するとこの下種を見逃す理由もなくなった。

恐らく近くに襲うべき場所があるのだろう。

「安心するがいい。お前達に握らせる事は許せずとも、切れ味を堪能する事は吝かではない。この刃。我が武を持ってお前達に示そうぞ。」

別の世界なれど、賊の跋扈を許すほどこの張文遠。人の道を知らぬわけではない。

「クソ野郎が!ぶっ殺せ!!」

騎馬が勇むように駆けてくる。だが、既に我が刃の間合いなりて、その騎乗の攻撃は遅い上に、間合いを見誤ったもの。

賊の一撃避ける事など造作もない。槍の一突きは首目掛けて伸びてくるが首を横に落とす事で避ける。

その動作とともに、私は腕の一部と化した刃を振るう。

視界に見える3騎の馬を叩き斬った。今の私には青龍偃月刀により、武力が向上されているのも相まってか、何時もよりも軽妙な動きが出来た。

馬を切り伏せる事ができるほどの向上には眼を見張るものがある。それに他にも思う所はあったが、まずは事態を収めねばならない。

相手は馬を一気に斬り伏せた事に恐怖したようだ。足が止まり、顔が引き攣った者となった。

構わずに私は踏み込む。

地に伏せた賊の頭を刎ね飛ばし、動きの止まった騎乗の賊を突き刺した。

「く、くそ!囲め!数では勝ってる!囲んで殺せ!」

下策とはまさにこの事を言う。

複数が一人を相手取る場合において、四方を囲む事は有効な手段と思われる。

が、それは熟練する者同士で行う連携である。

下手な者が、まともな訓練を行っていない者達が行ってもそれは互いを活かせない。

隙と動きの鈍さを誘発させ、(誰かがやるのではないか。)(誰かの後に続けば良いのではないか。)などといった考えを生み付ける。

まして、烏合の衆。

加えるならば、得物は長物である槍。囲みには扱いにくくそれに付随した腕が必要になる。

「な、なんだコイツは!」

このような囲みなど、あって無い様なもの。

私は槍ごと賊を叩き斬る。

この戦場を駆ける上で、私はある疑問を頭に持っていた。それが慢心に繋がる事もなく、賊の大半を殺したのだが―――

「て、撤退だ!」

生き延びた騎馬3。歩兵20名ほどを取り逃がしてしまった。

騎馬を先に殺しきれなかったのがまだまだ私の武が未熟な所であった。

如何に歩兵の後ろに行こうとも、殺す事は可能であったはずだ。

反省を感じつつも、私は躯を眺める。

驚く事に彼らは血を噴出し、息絶えているのである。なんとも、面妖なものであった。

私の世界(ゲーム)では彼らは討たれると悲鳴を挙げて倒れ込み、消えてしまう。

その時に血を流す事もない。しかし、消えてしまってもまた徴兵したのなら何食わぬ顔で存在しているのだ。

将であったとしてもそうだ。

斬首すれば物語からは退場するが、時が止まれば普通に存在している。その上、我らの主に文句を言うのだ。

「能力が中途半端だから。使う用途がないからって理由だけで斬首されるのは辛い。」

等と申す者も居たくらいである。

この躯から察するにこの世界ではこれが普通なのだろう。加えて、我が武も予想以上に強い設定となっているやもしれぬ。

馬を3頭も斬り伏せたのだ。普段であればまず出来ぬ芸当。

もしや…。

これは我らの主が言っていた世界創造(アップデート)なるものではないだろうか。

いやいや、しかしこの世界は確かピーエスツーというものでそれは出来なかったと誰かが言っていたな。

そうなるとこれは……。

新作なのだろうか。記録(セーブデータ)を反映させる事ができる世界(ゲーム)もあると聞く。ならば、新作に古い私が存在できるのではないだろうか。

むむむ。可能性としては在り得る。だが、随分と思い切った事をする所であるな。

これほどの戦場(いくさば)を我らの主のような少年に見せて良いのだろうか。

まさか、これが我らの主の言っていた年齢規制が入るという世界(ゲーム)なのだろうか。

もしや、それではないだろうか。

近年の創造主達(ゲーム会社全般)は、さらなる高みを目指し、あやゆる試みを行っているとも聞く。

美男美女ばかりを創造する事もあれば、女子ばかりが存在する世界(ゲーム)に男が少数だけしか居らぬ地もあると聞く。

しかし、管夷吾殿は何故それを知っていたのか。

我らの主がまた喋っていたのだろうが、聊か不憫ではあるな。

我らに語りかけても返す方法を知らぬ身。

出来る事ならば、一度で良い。話してみたかったものだな。

む。そういえばつい先ほど、我が君の元での話し合いで、三国無双なる世界(ゲーム)が挙がっておったな。

一騎当千の如き雑兵を叩き斬るか。

うむ。

ここはその三国無双かもしれぬな。話の程度からも私が馬を斬り伏せた事も納得できる。

しかし、何時までも悩んでいてはどうにもならぬか。

どういった経緯で私がここに居るかは判らぬが。いずれ見えてこよう。

まずはこの地にて、私がするべき事を見つけぬ事にはどうするこもできまい。今、私は誰からの縛りなく動かねばならないようだからな。

その事を自覚した瞬間から身体中に滾るものが溢れて返って来る。

忘れていたあの日の滾りに似たものであるが、違いはすぐに判る。

私は今、己で考え、己で行動できる事に、喜びと感動を覚えているのだ。

「ふっ。当に忘れたと思っていたが。我が武を示す事がここでは叶うやもしれぬな。」

最も、ここには我が君、煉獄(笑)殿が居らぬ故に、何処かに仕官せねばならぬようだ。

煉獄(笑)殿は我らの主が中二病なる不治の病の余波によってその名になったと本人が涙を流しながら語ってくれた。

我が君も不憫であったな。

この場を後にしつつ、賊の動きから見て近くに村でもあると踏んでいる私は行く当てもなく彷徨う事にした。

*****

荒涼した大地が続いていた。

本来、本物の張遼であるのならば、ここが何処であるかは判ったやもしれない。

しかし、残念な事に私は作られた張遼に過ぎず、知識も与えられたものしか有していない。

その事で地理の把握に難儀している。

元の世界(ゲーム)では、地理などかなり大まかなものであったので仕方ないの無い事だと思うようにはしているが、これはどうにも進む方角を間違えたか。

そんな不安が過ぎった。

ここが三国志を題材にしているのはあの賊を見て理解はした。だが、果たして今、どの時代なのかははっきりしていない。

乱が起こっているのか。起こる前なのか。はたまたまったく別の、それこそ<イフ>と呼べる設定なのだろうか。

未だ、知己にとは言わぬが、民にすら出会えておらん。

三国志の歴史は多少知っている。

それが設定として必要だったからであるが、それも何処まで通じるか判らぬ。

正史と演義が存在するそうだが、私の知がどちらのものかまでは判らぬ。

それらを考慮するのならば、やはり、この眼で確かめるしかあるまい。

歩けど歩けど、未だ見えず。日は昇り傾き始めていた。

最悪は野宿を覚悟せねばならない事を考えていたのだが、彼方より戦場(いくさば)の風が流れてくるのを感じ取った。

空腹ではあるが、動けぬわけではない。弱者が賊徒に襲われているという事も考えられる故に、私は駆けた。

未だ、衰えを知らぬ我が身体に感謝しつつも、駆ける事によって生じる身体に溜まる疲労感から呼吸を整える必要性。

それらが余計に私を滾らせ、活を見出していた。

驚く光景であった。

この地に足をつけたであろう時から私は果たして何度、このように驚いただろうか。

集団での戦闘だと思い込んでいた事もあるだろうが、黄布賊徒を蹂躙するかのようにその集団を切り裂く一人の女子。

なんという武だろうか。

私は暫し見惚れてしまったが、決して後悔はしておらぬ。

武に美しさを感じた事などなかった故に、その光景はまるで新しい。その地平の彼方に見える空の淡い青さのような髪が揺れながら、その身純白を纏いながらも、赤に染まらず。

戦場(いくさば)を踊る演舞の如き、立ち振る舞い。その腕に握り、腕の一部となった得物の軌道はまさに縦横無尽か。

だが、そう何時までも眺めているわけにはいかない。

多勢に無勢は明白。賊はそれなりの軍勢のようだ。

遠目に見て、弓持ちが数十。女子も弓を嫌って自ら飛び込んだか。少なくとも、猪ではないようだ。

これは、我が武を持って弓の脅威を取り去る事が先決。

そう思い行動しようとしたのだが、私を見つめる視線を感じ取った。

幸いと賊ではないようだ。敵意も殺意もない。

気にはなるが、今は目の前の女子を助けようぞ。

私は地を駆けた。

間合いを詰めていくと賊徒もこちらに気が付く。騎馬が気付き私に駆けて来きて言い放つ。

「てめぇ何者だ!」

「生憎と、お前達に明かす名など持ち合わせていないだ。」

「なんだと……!」

「急ぐのでな……押し通る!!」

「こいやぁ!!」

迫る騎乗の槍は二つ。その揃った刃の軌道に感心しつつ、賊でなければ良い兵になったであろう二人を槍ごと叩き斬った。

惜しい。筋が良いだけに。そう思えた。

だが、それも一瞬の事。一瞥もせずに他の騎乗の者を落とし、あるいは突き殺し、斬り殺した。

時を稼がれてはならぬ事を承知している。

此方を目掛け矢をまさに今射ろうとする弓兵を捉える。そんな物に恐れる張文遠ではない。まして、間合いはこちらに分がある。

このような中途半端な間合いでは活かし切れないのが弓である。射られる弓を時には避け、時には得物で落とす。

目の前に迫った私を見て弓が逃げ惑い、歩兵が前に出てくる。思い通りになったようだ。

これで女子もさらに動きやすくなったであろう。そう思いつつ、目の前に迫る雑兵達に我が武の体現である刃が応えた。

「邪魔だ!」

横薙ぎにより、数名を斬り飛ばし、弓兵に肉薄する。

活のある者は短剣を抜き去り襲い掛かってくる者も居たが、無駄な足掻きであった。

難なく首を刎ね飛ばし、あるいは斬り殺した。我らの武を見せ付けた事により、賊徒は完全に戦意を失いつつある。

「く、くそ!な、仲間か!」

ここは、一つ。

「官軍の先遣にて馳せ参上した!賊徒共よこのまま我が武の糧となるか!」

官軍などではないが、賊徒を混乱させるには十分すぎる嘘であった。

「か、官軍が迫っているのか!」

「ま、拙いぞ。」

「うろたえるな!単騎駆けできた奴の話を―――」

混乱を収めようとする者の首を刎ね飛ばす。このような混乱時、軍を立て直すのは指揮官の役目。

賊徒としてはそれなりの統率力があったようだが、戦場で敵を目の前にしておきながら視線を外し注意を怠るなど愚の骨頂。

だが、それによって賊徒は蜘蛛の子を散らすように逃げ去ったのは好都合であった。辺りに静寂が舞い降りていく。

此度の戦いにて、私の武は確実に高みへと一歩上り詰めた。そんな気がしていた。賊徒の討伐での武勇など蛮勇である。されど、それもまた然り。

武の高みを登るには必要な事。

「そこの御仁。一応は礼を申そう。助けていただき感謝する。」

先ほど思う存分に武を披露していた女子が私に向け言い放った。

「だが、貴公が割って入らずとも、私だけで十分あの賊徒を討つ事が出来た。」

なんと、自信に溢れた物言いだろうか。

私は少々毒気を抜かれてしまったようだ。

女子という事で、何処か侍女や町の庶人の女子を思い描いていたのだろう。

「確かにそうであったと見受けられたが、弓兵が居ては少々窮屈そうに見えたのでな。余計な手出しを申し訳ない。」

ここで、言い争いをしても無益なだけである。それに、今は他に知りたい事がある。

「ほぅ……。いや。確かにその通りだ。それに貴公の武も中々のものであった。」

「賛辞痛み入る。これも何かの縁。幾つか知りたい事があるのだが、答えてはもらえぬものか。」

「ふむ。内容によるだろうが、私で答えられるのなら、答えよう。」

「感謝する。では一つ、ここは―――」

私はまず初めにここがどの地なのかを聞こうと口を開いたのだが。

「大丈夫ですか~?」

話の腰を折られてしまった。間延びした女子の声によって。

振り向けば、二人の女子が。

「風。この私が、あのような連中に遅れを取る事は無い。大丈夫だ。」

「それもそうですねー。」

「貴公もお怪我は……ないようですね。」

「あ、あぁ。心配は無用だ。」

見かけぬ衣服を纏う女子達だと思った。金色の髪色を持つ女子は至っては、頭に面妖な物体を乗せている。

「おかしいですね。ここは比較的賊の少ない土地なのですが。」

「ほぅ。それではここはそれなりの政を行っているという事か。」

民心が高いのだろう。それに黄布賊は冀州で立ち上がったと記憶している。

そう考えるとここは冀州から遠からず、近からず。という土地であろうか。

「正確に言えばここ陳留を治める曹孟徳という人物が。という事ですが。」

なんと、ここは孟徳殿の居る陳留であったか。

特に喋る機会も会う機会もなかったのだが、その信望は初心者モードでも上級者モードでも世に轟くものであったな。

「噂をすれば……。後は、その陳留の刺史様に任せるとしよう。すまない。約束を違える事になってしまうが。貴公は何処かの豪族であろう?共に居る所を見られると要らぬ詮索を受けてしまうのでな。」

「官が絡むと余計な面倒ごとを抱え込みますからね。」

「いや、気にする事は無い。貴公らには貴公らの事情があるというもの。」

「それでは、」

「あぁ。達者にな。」

聞きそびれてしまったが、地平の向こうより砂塵を散らす姿が見えてくる。

あれが、官軍だろう。それに、旗を見れば曹。

果たして、ここの孟徳殿は如何様な人物であろうな。

暫くすれば、私を囲むように取り並ぶ騎馬の牢が出来ていた。

私に非があるわけではないので、どうこうするつもりはない。やがて現れる3人の女子。

いや、まて。むむむ。嫌な予感が全身を駆け巡ってしまった。

「華淋様。こやつは……。」

黒い髪は長く腰元にまで届く。

気高さの中に獰猛な虎を意識させる女子が口を開いていた。

「―――どうやら、違うようね。」

「はっ。こやつが、賊であるのならば探している連中は犬畜生以下の存在になってしまいます。」

水に映る空の青さの如き髪色に違わぬ落ち着き払った抑制の効く声が私の耳へはいってくる。

どうやら、賊徒討伐。あるいは捜索のために軍馬を用いたようである。

共々、武人としては相当の腕前。その空気。未だ穏やかだが、触れる事に躊躇するほどに。

「貴公を陳留刺史であるとお見受けする。某……姓は張。名は遠。字は文遼と申す者。」

いざ己の名を出す際には逡巡してしまった。

ここは私の居た地ではない。まったく新しい地。そして同じ三国志を題材している。

ならば、この地にはこの地の私がいるはずである。ならば、同名は拙いと判断した。

判断したは良いが、咄嗟に名など出てこない。仕方なく私は字の遠と遼を入れ替えたのである。

安易に私の息子の名や兄弟の名を騙っては後々、面倒になられては困まるので、思わず頭に過ぎった己の名を入れ替えてしまった。

名乗ってしまったからにはこの地では張文遼と名乗らなければいけないな。

抵抗は聊か残るが、致し方あるまい。この地の私に迷惑を被らせるわけにもいくまい。

「そう……。私は陳留刺史の曹孟徳よ。張文遼。貴方はここで何をしているのかしら。」

なんとも、難儀な質問を投げ掛けてきた。

先ほどの3人組みは官に関わりを持つのを嫌っていた。もしかするのならば、あの女子を追っているやもしれぬ。

しかし、正直に話すのも私の立つ瀬がないように思える。

「はっ。陳留へ向かう旅の途中。賊徒に襲われており、今しがた敵方を撤退させた所でした。」

未だ、遠くはない位置に躯が無数に転がっている。証拠にはなるだろう。

「あれをたった一人で?」

今回は一人ではなかったが、可能であるかといわれればそれは

「はっ。」

「貴方、陳留への旅の途中だと言ったわね。……いいわ。私が城まで案内してあげる。」

「華淋様!」

「春蘭。」

目の前で騎馬に跨る金色の髪を左右に降ろす女子が曹操殿ならば、一歩後ろに下がり佇む二人は夏侯元譲殿に夏侯妙才殿か。

なるほど。この世界(ゲーム)では、三国志の主要な人物は皆性別が逆転していると見て良いのだろう。

何故、そうなったかは創造主にしかわからぬ事故。

私は考えるのを辞めた。

何やら、曹操殿は我が武に興味を持ったようであるが、黒髪の春蘭と呼ばれた女子は反対しているようだ。

見ず知らずの輩であるからして当然の対応ではあるだろう。

「この者が。私に嘘をついているとでも言うのかしら?」

「そ、それは。」

「姉者。何処の馬ともしれない。という気持ちは判るが、この者の武もまた判るだろう。」

「も、申し訳ございません。華淋様……。」

「良いわ。私の事を思ってくれたんですから。さて、張遠。往きましょうか。」

「はっ。」

私はその言葉に頭を垂れ、親衛隊であろう騎兵の後ろに搭乗する事を許され、陳留へと進む事に成功した。




未完
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