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魔王と勇者と暗殺者 第十話

男は身体にかけられた魔法、そして探知アイテムの解除に成功してから二週間ほどこの村で生活をしていた。
エーファは男の事を知りながらも、武者修行という嘘を貫き通すためかどうか判らないが、村に居座り、森に行き、個人でまたは男と共に行動する日々を送っていた。

二週間前よりは確実に身体の動きは良くなっていたのだが、男自身、剣士として指南できる人間ではなかったので、基礎的なものをエーファが男と行動するうちに盗んで練習しているだけであった。伴ってエーファの生傷も増えているのも事実である。

「そんな事、信じられません!」

魔術師が叫ぶ。

「事実だ。」

男は何時もと変わらない声質と淡い瞳で応える。

「私は何も聞いていません!」

「君がどんな身分かは知らない。だが、これは事実だ。」

この程度の事を知らないで驚く。組織のあの女は俺が世俗に疎いと言ったのに、コイツラは俺以下か。等と男は思ってしまった。勿論、男の情報が世間に出る情報ではないのだが。

「貴方のような訳のわからない人の事なんて……!」

「私は…。信じます。」

勇者と呼ばれる女剣士は男を見据えたまま、そう呟いた。

「勇者様!」

「……俺もこの言葉には信憑性がある。」

「アレンさん。」

「……アレン。説明できますか?」

「この男は相当の実力者だと言う事が判る。その男が俺達と対等な立場での話し合いを設ける事がまず一つ。」

男は心の中で自嘲する。買いかぶりすぎな奴がいて助かると。

「もう一つある。この男は嘘を言っている眼じゃない。」

「アレン…。アレンが言うのなら……そうなのでしょう。」

勇者側は最初、フードをはずし顔を見せる事を提示し男も了承していた。そしてアレンと呼ばれた男はフードをとった男を見つめていた事。
背中に嫌な汗が流れるのを男は感じていた。仮定でしかないのだが、それでも危惧しなければならない問題。

レアスキルの可能性。
一介の弓使いが勇者の護衛と恐らくは貴族か王族血縁の魔術師のお供。余程腕が立つであろうと事は男には判りきっている事ではあったが、それ以上に今の何気ない発言に恐怖せざるを得なかった。

「此方とはしては最大限の情報提供を約束しよう。俺は君達の情報も欲しい。」

「判りました。イーナも良いよね。」

「私は、勇者様に従うまでです。」

どうやら、洗脳はあくまで口上の範囲でのようだ。男は一先ずの安堵を覚えていた。
魔法による洗脳ではまた老婆に手を借りなければならないだろうが、その事は流石にこの村の住人達も容認するかどうか。

彼らからすれば自分達のスキルが通じない人間が男以外で来た事に対する驚きもあるのだろう。

この村にはスキルによる保護が存在している。
男はそれを受け入れているから入る事が許される。数十年以上前、森で拾われ、殺されそうだった男を村は許容し、存在を肯定した。

そこには男がおぞましいほど生に執着し、この村に住む人々に恐怖と、ほんの僅かな光を与えた事による偶然によって、男にはこの村に入る事を許可され、さらには男自身も受け入れているのだった。
エーファは男が連れてきた人間であるために男による説得の後に受け入れられている。それは一時的なものであり、今でもエーファに対しては村人達は、殆ど受身である。

最も、長老含めた村の高齢者達は、男の連れてきた女は婚約者だと思い込んでいるので割りと話しかけたりする場合もあったりする。

話を進めていく内に男は状況を理解していくと同時に自分の勘が当たっていたと感じていた。
主従関係は勇者を頂点に魔術師弓使いというようで、物事の最終決定は勇者であるが、議論による決定が主になっているという事。

勇者一行は男が魔法をかけられた国の王からの勅命によって魔王退治をする事になった事。その一環としてこの地域に巣食う魔族の討伐を王から命じられ、この村に来て殺人を犯した事。そして殺したのはイーナとアレンで、勇者は人を殺せていなかった事。

「一つ。気になる事がある。これは勇者自身に関する事だ。答えたくなければ答えてくれないで構わない。」

「ハルカ。と呼んで下さい。勇者と言われるのには未だに慣れていなくて…。イーナにも言っているんですけど。」

「勇者様は勇者様です。それに、このような男に名を許すなど…。」

「良いよ。減るものでもないでしょう?」

「なら、ハルカ。君は俺と対峙した時に、この世界の事を知らない。これに似た事を喋っていたが。」

「…私は―――」

「勇者様は記憶喪失なんです。召喚の儀によって勇者選定を行ったのですが私が未熟なばかりにこのような不憫な事に…」

「…イーナ。」

「そうか。すまなかった。」

「いえ」

話せないか。

男は一先ず、後回しにする。勿論非常に、興味がある事ではあるが、ここで辺に食いついても訝しがられるだろうし、今後の関係にも悪影響だと判断した。
個人に関わる事だ、安易に教えたくない気持ちは男にも痛いほど判る。だが、男はその気持ちをわかっていながらも、他人の個人情報を知りたがる癖があるのも理解していた。

男は状況を整理する事にした。ギルドからの依頼は無いと踏んではいたし、勅命だろうとも予想していた。予定通りである。これ以上の追撃の可能性はない。

これ以上、王の命でこの村の排除に動くとなると世間もその動きに気付くはずだ。そうなると困る事に、今度はギルドが動く事になるだろう。。ギルドの長達には、この村出身者も居るためでもあるが、ギルド自体が討伐対象に指定していない上に、この村と同じように異人と呼ばれる種族の存続賛成派なため、国家が動いた場合はギルドが介入してくる。

そうなれば戦闘にはならずに国家は存亡の危機に瀕することは眼に見えていた。ギルドに所属する人間の数は膨大だ。

各国軍の兵士の訓練項目にギルドに登録することで任務を受け討伐を行う事もある。さらに各街の雑務から害獣被害などの対応をギルドに丸投げしている。
ギルドが各国に今後一切の依頼のやり取りを拒否する場合、経済打撃だけでなく、近隣住人の生命にも危険が迅速に進行してしまう。この事を王が理解していないわけではないだろう。

この事から、もう表立った追撃はない。あるとしても他国の勇者が来るくらいだろう。それは十二分に脅威だ勇者達が、この村の防御を打ち破って侵入してきた事は事実である。
他国の勇者も同等の力を持っている可能性が高かった。だが、今回は一国の王の独断ではないかという思いが強い。さらに言えば、勇者がここに来た事は自身の駆除が目的の一つでもあったのかもしれないと考えていた。

男の探知と感知が消えたのがこの地域でこの村であった。ならば男は異人の可能性が高い。もしかしたらこれは村共々一網打尽にできるのかもしれない。王にそんな思惑があったのではないかと男は考えている。

一先ず、その思惑通りに行かなかった事に感謝する事にした男は、今後の行動を考えなければならなかった。
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