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魔王と勇者と暗殺者 第九話

「話を聞いてください。」

男の目の前に女剣士が佇んでいた。男の横にはエーファが倒れている。気を失っているだけだ。呼吸を微かに感じながら、男はこの状況の危険性を感じていた。
相手は3人。女剣士に弓使いの男。杖を持つ女。3人が村の門から侵入したのは判っている。村人を殺したのも。理由は判らないが、目的は俺以外。

つまりは村そのものが目的。たった3人で村人を殺すのだろうか。だとするのなら相当腕が立つ。だが、エーファを殺す事は無かったのは幸いか。
この子にはこんな所で死んで欲しくはない。そんな事を男は思いつつ、間合いを開ける。ゆっくりと。

「二人をどうにかするつもりはありません。私達は貴方達を助けたいのです。」

解せない事を言う女だ。と思ったが合点がいった。この村の駆除。男はため息をつく。女達は訝しがっているが男にとってどうでも良かった。

この村に住む住人は人間種にはなるが、異人と呼ばれる者たちの一族であり、常人よりも魔力が高い事が特徴でとても長寿なのである。
知識の探求を趣味としながらひっそりと暮らすのには訳がある。彼らを弾圧し根絶する運動が過去に起こったためだ。
それは遠い昔の事であったが今でも、それらは脈々と受け継がれていた。忌み嫌われる者達として。

「私達は魔王を討ち、そしてここを支配する魔族を討つためにきました。」

男はフードに隠れた顔を歪ませる。勇者とかいう連中か。男は静かに唇と動かした。3人の後ろには村の住人が隠れて居たために、出てくるな。と口を動かしていた。
読み取ってくれたかどうかは判らないが、住人達はこのまま身を潜めてくれているようだ。男の後ろにも数人の住人がいるが、動く気配を見せない。

彼らも迂闊に動くと男に迷惑がかかることを理解しているからであった。相手は恐らく、洗脳に近い状態だろう。魔術師を先に殺すべきだな。男はそう考える。

洗脳されている状態では弁明しても意味がない。だが、万が一。僅かな可能性に賭けて話しかける。3人はバランスが良い。男には分が悪かった。

正面から戦うのは戦士や騎士で十分であり、男は戦士でもなければまして騎士という忠義を持つ義士でもなかった。
奇襲や奇策を用いても、遠距離の弓使いが居るために返り討ちにあう可能性の方が高い。魔術師よりも攻撃が素早く、剣士よりも間合いが広い。
弓使いの男が緊張している具合から、動いたら迷わず射ろと言われているのだろう。今この状態でも弦は引かれている。

「一つ。誤解がある。」

「……何でしょうか。」

ふと、女剣士の顔を見る。不安に胸が一杯で顔色が悪いのが伺える。素人か。人間を殺す事に抵抗を持ち、未だに踏ん切りのついていない。
中途半端な心情であるようだった。

「この村は過去に災いを呼ぶ異人。人を食らう魔族。などと言われ虐殺の限りを受けた者達だという事は知っているか?」

「異人は人々を襲い続けていました。当然の報いを受けているのです。」

魔術師が声を挙げる。言葉遣いや僅かな挙動。型に嵌っているのが良く判る。この魔術師は何処かの国に仕えているのだろう。
それなりに位の高い人物。男はそう推察する。

「彼らが人を襲った事はあるだろう。彼らも人という形を成す存在だから。」

「では、何故貴方は!」

「人間もまた人を襲う事に変わりは無い。そのことについては些細な事。」

「ッ!」

女剣士の顔が変わる。悲痛さがにじみ出てくる。対峙しているのにも関わらず視線を下げてしまっている。
隙だらけであるが、後ろにいる弓使いが邪魔でしかなかった。3人の中で一番の使い手だろう。男は感じ取る。
人を殺した経験を持ち、その事を受け入れている。故に、今緊張感を持ちながらフードで顔の半分も見えない得体の知れない男の挙動に神経を尖らせている。
フードの男から感じられる強さを感じているのは恐らく弓使いのみだった。

「落ち着いて欲しい。今更、歴史は嘘だったと弁明するほど愚かではない。が。この村に住む人々は魔族では決してない。」

「村にいた貴方の言葉など信用できません!」

「村に滞在していたからこそ。見えてくるものもあるのではないか?」

「そんなもの…!」

「待って!」

「勇者様…」

「ごめん。私はこの世界の歴史とか全然判らないし少ししか教わっていないけど―――」

大丈夫か?男はそんな事を考えてしまった。魔術師と女剣士もとい勇者が会話し始めた。男は弓使いに同情してしまうと同時に教育がなっていないとも思った。
この状況なら弓使いの初撃を避ければどちらかの女を人質に出来るか。そんな事を考え始める。武装はある。服の中にも腕にも仕込んである。

腕を向けても不自然でない状況になればいつでも動ける。だが、一つ、気になる事があった。
その事について男は興味をもってしまったので、殺す事はやめ、会話による解決を第一にして行動する事に決めていた。だが、腕はいつでも動かせるようにしておく。

「すまないが。良いか。」

「え、あっ!すみません。」

「俺が言いたい事は、少なくとも、君達が殺す意志を見せなければここの住人は絶対に君達を襲う事はない。」

「そんな戯言を信じる事など!勇者様、口車に乗る必要はありません!アレン!」

「やめて!」

弓使いは矢を射る。良い反応だと男は思いつつ初撃を避ける。男の後ろに立っていた住人に命中し崩れ落ちた。長い間狙いをつけられていたのが幸いし、何処に凶器が飛んでくるのか予め予測する事ができた。後は、間隔を合わせて身体を動かすだけで済んだのだった。

「今の攻撃で一人の命が散った。その事について何か言う事はあるか?」

「何もありません!魔族の手下が何をぬけぬけと!」

魔術師がどうやら酷い洗脳を受けているようだ。男の推察ではあの魔術師が勇者と弓使いに洗脳をしていたはずであったが。
そんなことを考えていると乾いた音と共に魔術師の頬に赤い手形がつく。

「もう、やめて。イーナ。」

「ゆ、勇者様。」

「すみませんでした。お話を詳しく聞かせてください。」

そういうと、勇者は頭を垂れた。

「勇者様!」

「イーナ様。」

「アレンまで…」

「勇者様がこう言っているのだから。」

「……判りました。」

3人は一先ず、落ち着ける事ができたようだった。

「長老。」

「判っておるよ。我々は殺されながら生きてきおった。理不尽にはなれておるよ。」

彼らは、長年。虐げられてきた。今の達観した価値観はそうした理不尽が積み上げてきた同胞の屍の上に立つ者として歯向かう事をせず。

ただ安寧を願いひっそりと生きていく。その考えが作り上げたものだった。射殺された亡骸を涙も流さずに運ぶ住人達。
殺した張本人が目の前に居るのに、彼らの眼には憎悪も恐怖も無く。ただそこに光の消えた二つの眼がついているだけであった。
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