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魔王と勇者と暗殺者 第八話

エーファは男がこの村に来た理由を聞かされてから、男に対する対応に変化が出てきていた。男はその事を知っていたが、特にどうこう話しかけるわけでもエーファに改善を要求する事もしなかった。そう行動していたのだが、エーファは日に日に顔色を悪くしていき遂に男へ話しかける。

「…本当にそれでいいのか。」

「……復讐しろと?国家に?」

「い、いや。そんな事ではない。お前の心の問題だ。」

「それこそ…関係ないとは思わないか?」

「………。」

「君が悩む必要は何もないだろう。案じてもらえる事は素直に嬉しいが―――」

男はそこで一端、言葉を切った。エーファは顔を背けているがやがて男を見据える。誰かが見ているな。男はこんな人に聞かれそうな外で話しかけられ、受け答えしてしまった事に後悔していた。

「それは、押し付けになる。善意は人によって変化するものだよ。」

「…ッ…。私は、そんなつもりなんて!!」

「……だからそれを学ぶのは大事だとは思わないか」

「……。」

「君は十分に善人だよ。それだけは何時も信じていいはずだ。」

「善人だからって……。人に何かを押し付けていいわけでも強制していいわけでもないだろう…。」

男の目の前には一人の女の子が立っている。必死に胸を張って、一人よがって何かに対抗しようとしているように男には見えた。歪むその顔。その脳裏には何が見えているのだろうか。男はエーファを良い所のお嬢さんと言い切った節がある。彼女にはそういった空気や立ち振る舞いがあるのは確かであった。

「深く考えすぎだな。君の立場上。そうなってしまうという事か。」

「…何を…。」

「良くは知らない。面倒だから教えてくれなくて構わない。」

「……すまない。私は……。」

エーファは酷く汚い顔をしていた。醜い顔。汚れた自分自身を心底嫌っている。男はエーファに対してそういう気持ちがあると考えていた。

「もう少し、自分自身を考えて自分で行動し考えられるようになれるようにな。」

「……ふぅ…。同じ事を、昔言われたんだ。」

「進歩がない証拠だな。」

「ハ、ハハハッ。その通りだな。…変な事を言ってすまない。」

「あぁ。次からは気をつけてな。」

「努力するよ。」

エーファはそういうと弱弱しくも男に向けて笑みを浮かべ、滞在中泊まっている家に入っていった。暫くは出てこないだろうと男は思ったが、森へ向かう準備を始めた。ギルドからの依頼のためである。
エーファは何時も声を掛けるわけでもなく付いて来ていたが、流石に今回は付いて来る気配はない。

エーファは今、男と組んでいるという認識を持たれた上でこの森への侵入を許可されている。このことによって、男はわざわざギルド支部へ行き、入る許可証を発行してもらう事を行った。人相書きをばら撒かれても居ないので、多少の変装をして現在でもギルドの依頼を受けている。登録も別途に行う事もせず幾つかの名前の内の一つを使っていた。

何故、ここまでしなければならないのか男には理解したくはなかったのだが、老人達が予想以上に男の婚約者だという認識が強く、嫁のために云々と小言を言われるのだ。
その事が面倒になってしまったので、エーファには面倒なので暫くはこの状態で行くという旨を伝えてある。

エーファはというと、単独行動をしていたにも関わらず、暫く村に滞在させてほしいと老人達に頼み込んでいたのだ。それを男は老人から言われ、住人の説得に苦労していた。
結局、滞在自体は許可されることに落ち着いた。男としては、エーファを引き剥がしたい思いがあったのだが、エーファとしては腕を磨きたい思いが強かったらしく、男にも懇願して稽古を付けて欲しいと駄々を捏ねていた。

男は決してエーファに指導する事はしなかったが、狩りについてくることを拒む事はしなかった。結果的にそれが訓練になるだろうと男は考えていた。
助ける事は絶対にしなかったのだ。死ぬほどの怪我を負いそうになっても男は助ける事をしなかった。その事をエーファは怒る事もせず、ただ、自分の未熟さを呪っているようにも感じられる空気を纏う事があった。

何度も怪我を負い、時には重傷を負う事もあったが、その時は治癒者に頼って部屋に篭る事もあった。
男は、森を進む中で、そろそろ行動を起こす事を考えていた。何時までもここに居るのは宜しくないと、考えるとともに、エーファにも戻る所に戻って欲しいと願っていた。

盗賊の討伐依頼を受けて、盗賊を殺す事があったのだが、エーファは人を殺す事が出来ないで居たのを男は思い出していた。あの時のエーファの顔は恐怖に引き攣っており、普通の女の子でしかなかったのだ。男の顔は歪む。

子供が背伸びして大人になりたがる。そんなものだろうと考えているが、この生活でそれを望む者が死んでいくことは常識である。

それゆえに、エーファにはそういう醜い死に方をして欲しくないという考え方を持っていたのだった。

一頻り思案していた男は暴れている気配を感じながらその方向へ向かう。昨日に罠を仕掛けておいた場所には、魔物が一体捕獲されていた。醜い顔をしていると素直に思えるその容姿は何処か人間にも似ている。男はその自分の胸ほどまでの体長を持ち、長い爪で何度も罠を破ろうともがく魔物を見てそう感じていた。人間も魔物も根の汚さが同じ奴がいるという事を知っているから尚の事、男にはそう思えてしまったのかもしれない。

魔物とは何なんだろうか。

魔族とは―――。ふいに駆け巡った事は長い間殺してきた魔物に関する知識を男はあまり持ち合わせては居ない事に気付く。

魔物と眼が合うと、激しいうめき声をあげて戦闘体勢に入る。依頼は捕獲。このような魔物を捕まえてこいという依頼は学者の研究に使われるものが殆どである。学者達もまた、男と同じく魔物とは魔族とは何なのか。それを探求し続けているのである。判っている事は少ない。

世間に流れ出る情報の殆どは大まかな生息地域、特徴。狩る際の注意点。習性。後者の習性に関してはランク付けもされていない動物と殆ど変わらないような魔物ばかりの情報だ。男は背負っていた弓を取り出す。小さい弓だった。腰にさげていた鉄の棒には穴が空いており、そこへ矢を刺し込んだ後に、構える。矢は湿っていた。

放たれる矢を避けようとする魔物であったが、捕縛されている足を狙っていたために、命中し悲鳴をあげる。後は、弱って睡眠するのを待つだけであった。即効力があるといっても数分はまたなければならない。魔物に聞く薬物もまだまだ研究不足だった。

妙に頭が重いと感じながらも、眠りについた魔物を縛り上げて、布の袋に閉じ込めてその場を後にした。
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