魔王と勇者と暗殺者 第七話
「まさか、お前さんが女を連れて帰ってくるとはな。」
焚き火を囲み座り込む人影が数人。その内、男とエーファの対面にいる老人がしげしげとそんな事を言った。
男は、同じ事を村に入る前と入ってから、少なくとも4度は聞かれていたのでもう、弁明するのも面倒になっていたので、特に訂正せずに話を進めた。
エーフェも空気を読んでいるのだろうか、特に口を挟む事もせず、静かに男の隣に座っている。
男はこの経緯を説明し、村にいる治癒者で自分に掛かった魔法を解除してほしいと頼み込んだ。老人はふむ。と頷くと顎から鎖骨あたりまで伸びた白髭を撫でている。
男はその動作を懐かしそうに眺めていた。10数年も昔にここを出て世界を放浪し、ある組織に入った男にとってここは故郷と呼べる場所だった。
この村に治癒者が居る事を忘れてはいたが、この村の存在を忘れる事は無くてよかったと、男は密かに安堵していた。
「もう、式はすませたのかのう?」
老人は目を光らせる。それが焚き火の光だったのか、老人の成したモノなのか判断がつかなかったが、男はとりあえず、話を進めたいと思い、後でゆっくりその事で話すから。と言い、強引に進ませようとする。老人は残念そうにそうか。と言い
「これ、婆さん。聞いておったか。」
隣で眼をつぶっている老婆に話しかけた。
「今見てみたが、これは中々のモンだよ。」
男は息を呑んだ。この老婆がそこまで他人の魔法を褒めた事が過去に二度しかないからだった。
その二度が二度とも、やれ魔人の魔法。やれ、悪霊の呪いだの。という人知を超えた代物であったからである。この老婆が治癒者。という事を男は知らなかった。
この老婆は巫女と呼ばれる聖職者なのは知っていたが、治癒者だったとは。男は長年謎だった老婆の本当の肩書きを知りえた事が逆に嬉しく思えていた。
男は、少々考えるとエーファには一回席をはずして欲しいと頼んだのだが老人が嫁に隠し事とはけしからん。
などと怒鳴り、エーファも知りたいと駄々を捏ねたために男は大きく肩を落とし、事情を説明する事になった。
「な、なんという事だ。」
「難儀な事じゃのう。」
「何時も世の中の理不尽は変わらないものだねぇ。」
エーファは国家が人を使い捨ての道具のように扱う事に驚いているようであった。まだ知らない事が沢山あるのだろうが、いきなり厳しい現実を聞かせてしまった。と若干の後悔を男は感じてしまった。
老人達はしみじみとしていた。男もフードで見せないが眉間に皺寄せた。
彼らはこうしてひっそりと住むにも理由があるからだった。今ではギルドに自治を暗黙の元で認められているようにはなったという事実。
それはここの住人の能力を対価にしているだけの事だ。彼らは知識人として非常に優秀であり、また魔術師としても希代の大魔術師と呼ばれるような人物を世に送り出している。
そういった著名になったもの才能を認められた者達は出生を秘匿され、管理されながら表の世界で生活していったのだ。
「話は判った。アタシに任せておきな。丁度弟子も出来たからね。二人がかりで行くよ。」
老婆によれば、人の魔法は魔物や魔族よりも解除が難しいという。そこには感情という不確かな流れの存在と同族同士というモノも大きく、人の恨みや決意などがこうした感染型魔法への依存率が高い。
老婆に言わせれば、悪霊の呪いや生者の意志は同等の怖さを持っている。老婆はそんな事を言いながら、解除の準備のために男を別室へ案内する。
解除後はどうしようか。男はそんな事を考えつつ、指定された術印の中心で座り、瞑想する。
組織に直ぐ戻るのは出来ないだろうし、感知、探知が消えたとなると追っ手が掛かるかもしれない。この村に危害を加える愚かな事はしないだろうし、あの森を抜けて行軍してくるとも考えにくい。場所がバレてしまっていても、元々権力者はこの場を知っているので問題ではない。
当面は、ここにお世話になるのも良いか。と考え付く。相手が暗殺者を送り込むにしてもこの村ならば雑魚が侵入する事すら出来ないだろう。逆に腕の立つ者を送ってきた方がやりやすい。
男にとって同業者の協定を知っているし、彼らとの交渉術も経験も数多にある。戦闘にならないですむ方法は幾つかそろえる事も可能だった。
エーファは事情を知っているが口封じする気もないので、移動したいのなら森を抜けるまで付いて行けば死ぬ事もないだろう。男はそう決めると、冷たい水を頭から被せられた。
すると、水が術印に染み渡り、白く発光する。
「そいじゃあ、始めるよ。強いからねぇ。半日は覚悟しなさい。」
男は頷いた。

焚き火を囲み座り込む人影が数人。その内、男とエーファの対面にいる老人がしげしげとそんな事を言った。
男は、同じ事を村に入る前と入ってから、少なくとも4度は聞かれていたのでもう、弁明するのも面倒になっていたので、特に訂正せずに話を進めた。
エーフェも空気を読んでいるのだろうか、特に口を挟む事もせず、静かに男の隣に座っている。
男はこの経緯を説明し、村にいる治癒者で自分に掛かった魔法を解除してほしいと頼み込んだ。老人はふむ。と頷くと顎から鎖骨あたりまで伸びた白髭を撫でている。
男はその動作を懐かしそうに眺めていた。10数年も昔にここを出て世界を放浪し、ある組織に入った男にとってここは故郷と呼べる場所だった。
この村に治癒者が居る事を忘れてはいたが、この村の存在を忘れる事は無くてよかったと、男は密かに安堵していた。
「もう、式はすませたのかのう?」
老人は目を光らせる。それが焚き火の光だったのか、老人の成したモノなのか判断がつかなかったが、男はとりあえず、話を進めたいと思い、後でゆっくりその事で話すから。と言い、強引に進ませようとする。老人は残念そうにそうか。と言い
「これ、婆さん。聞いておったか。」
隣で眼をつぶっている老婆に話しかけた。
「今見てみたが、これは中々のモンだよ。」
男は息を呑んだ。この老婆がそこまで他人の魔法を褒めた事が過去に二度しかないからだった。
その二度が二度とも、やれ魔人の魔法。やれ、悪霊の呪いだの。という人知を超えた代物であったからである。この老婆が治癒者。という事を男は知らなかった。
この老婆は巫女と呼ばれる聖職者なのは知っていたが、治癒者だったとは。男は長年謎だった老婆の本当の肩書きを知りえた事が逆に嬉しく思えていた。
男は、少々考えるとエーファには一回席をはずして欲しいと頼んだのだが老人が嫁に隠し事とはけしからん。
などと怒鳴り、エーファも知りたいと駄々を捏ねたために男は大きく肩を落とし、事情を説明する事になった。
「な、なんという事だ。」
「難儀な事じゃのう。」
「何時も世の中の理不尽は変わらないものだねぇ。」
エーファは国家が人を使い捨ての道具のように扱う事に驚いているようであった。まだ知らない事が沢山あるのだろうが、いきなり厳しい現実を聞かせてしまった。と若干の後悔を男は感じてしまった。
老人達はしみじみとしていた。男もフードで見せないが眉間に皺寄せた。
彼らはこうしてひっそりと住むにも理由があるからだった。今ではギルドに自治を暗黙の元で認められているようにはなったという事実。
それはここの住人の能力を対価にしているだけの事だ。彼らは知識人として非常に優秀であり、また魔術師としても希代の大魔術師と呼ばれるような人物を世に送り出している。
そういった著名になったもの才能を認められた者達は出生を秘匿され、管理されながら表の世界で生活していったのだ。
「話は判った。アタシに任せておきな。丁度弟子も出来たからね。二人がかりで行くよ。」
老婆によれば、人の魔法は魔物や魔族よりも解除が難しいという。そこには感情という不確かな流れの存在と同族同士というモノも大きく、人の恨みや決意などがこうした感染型魔法への依存率が高い。
老婆に言わせれば、悪霊の呪いや生者の意志は同等の怖さを持っている。老婆はそんな事を言いながら、解除の準備のために男を別室へ案内する。
解除後はどうしようか。男はそんな事を考えつつ、指定された術印の中心で座り、瞑想する。
組織に直ぐ戻るのは出来ないだろうし、感知、探知が消えたとなると追っ手が掛かるかもしれない。この村に危害を加える愚かな事はしないだろうし、あの森を抜けて行軍してくるとも考えにくい。場所がバレてしまっていても、元々権力者はこの場を知っているので問題ではない。
当面は、ここにお世話になるのも良いか。と考え付く。相手が暗殺者を送り込むにしてもこの村ならば雑魚が侵入する事すら出来ないだろう。逆に腕の立つ者を送ってきた方がやりやすい。
男にとって同業者の協定を知っているし、彼らとの交渉術も経験も数多にある。戦闘にならないですむ方法は幾つかそろえる事も可能だった。
エーファは事情を知っているが口封じする気もないので、移動したいのなら森を抜けるまで付いて行けば死ぬ事もないだろう。男はそう決めると、冷たい水を頭から被せられた。
すると、水が術印に染み渡り、白く発光する。
「そいじゃあ、始めるよ。強いからねぇ。半日は覚悟しなさい。」
男は頷いた。
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