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魔王と勇者と暗殺者 第六話

「ハァァァ!!」

その声と共に、刃が男のフードの先を通り過ぎる。男はその大振りな一撃を最後まで眺める余裕を持ってそこに立っていた。
いや、今の一撃を身体を後方にずらすだけで避けた。

女か。男は相手の声質と体躯から女であると読み取っていた。
マントで身を隠していたが戦闘に入り軽装備を纏っている事が良く判った。それなりに高いものだろう。男は軽鎧に刻み込まれる装飾からそういった予測をたてた。
良い所のお嬢さんか。まさか、この腕で騎士というわけでもないだろうに。そんな事を考えている男であった。

女剣士が決して下手ではないという事も理解していたが、対する男は数十年という経験がある。圧倒的な差であった。さらに薄明かりの中で戦っているのだ。
辺りには木々が生い茂っている森の中。男はため息をついた。恐らく実戦自体は殆ど経験のない剣士。男はそう結論付けた。

「貴様!」

挑発と取られてしまったようだ。女剣士は飛び込んでくる。どうしてこんな事になってしまったのだろうか。男はその事でため息をついただけであったのだが、都合が良い。

事情を話そうとしたのだが、問答無用で斬りかかって来たために殺す気だったが、あまりにも散漫な攻撃に拍子抜けしてしまった。すぐにでも殺せたのだが、初太刀までの身体の動きからしてその気も失せてしまったと同時に哀れとすら思った。

この森にはギルド指定区域に該当し、危険な固有指定のついている魔物が生息する地域である。ランクと言う評価付けがなされている魔物が多いために目の前の女剣士の腕前では立ち入りすら規制されてもおかしくは無いはずだったのだが。

男としてもこの森に入るのは嫌であったが、この森を抜けるとギルドが公式に足を踏み入れていない事になっている山岳地帯に出れる。そして、男はそこに住む一族に用があったのだ。男は元々、合法的にここへ入ったわけでもないのだが、森全域を管理できるほどギルドは膨大な人員を保有しているわけでも管理したいわけでもなかった。女剣士は上段から振り下ろすが男はそれを肩で止めた。

「なっ!」

驚きの声をあげる。男は女剣士の斬り付けが入る寸前に相手の手を押さえていたのだ。
そんな芸当は普通できるわけはずもないが、男からすれば女剣士の攻撃が遅いために、一歩踏み出す余裕があり、それを行っただけに過ぎなかった。
加えて、女剣士は腕だけで剣を振っている事が良く判っていたのだ。身体の軸がずれ、身体が浮き、地にどっしりと足が着いていない。あまりにも脆い。

だが、逆にそれが男の好奇心を擽った。女剣士が身体を強張らせている内に、腕を持ち、足を払い投げる。剣を落として地に伏せる女剣士。それに歩み寄る。

「こ、殺すなら殺せ!」

この子。可愛いな。男はそんな事を思った。元から可愛い顔だな、等と考えてはいたがどうも、この子は憎めない人間なのだろう。男はそう解釈した。

一先ず、男は危害を加えないと言い、女剣士の隣に座った。男は経緯を話す。ある依頼でこの森の先に行く必要があるためにここで野宿をしようとしていた。
そうしたら貴方が襲い掛かってきた。と相手にゆっくりとわかりやすいように適度な嘘を混ぜて喋った。

「すまない。」

女剣士はそう言い、頭を下げた。どうやら、相手も話の判る相手のようだ。男はその事でほっとした。融通の利かない人は苦手だったのだ。自己嫌悪のようなモノである。

女剣士の名前はエーファといい、この森に来たのは武者修行。という嘘をついていた。男は良くそんな嘘をつけるな。と思いつつもそのまま話を進めた。
襲ってきた理由は依頼だったようだ。これ自体嘘ではなかった。
この周辺を管轄するギルドから盗賊討伐依頼が出ていたのを知っていたためであったが、その依頼には制限があり、その参加制限は厳しかったはずである。その事で何かあって嘘をついたのだろう。

一先ず、食事をエーファがしていなかったようなので、先ほどの焚き火跡でまた火を焚き、料理の準備をさせた。
男は既に済ませた後だったので、寝るだけだとばかりに、木に登ろうとする。男は木に登って寝るつもりだったのだ。
エーフェが木で眠るのか。と呟いていたのを聞き、男は丁度体重に耐えれそうな枝が複数あるので、誘ってみると一つ返事で乗ってきたために、二人分の作業を始める。といっても万が一のために命綱をつける程度であった。エーフェは食事が終わったら登ってくるので、付け方だけ教えたのだが、エーファが何故か男にやたら話かけてくる。

「何処出身なんだ?」
「ギルドに所属して長いのか?」
「こういった事には慣れているのか?」
「あの身のこなし凄いな。」
「魔物はどれくらい倒したんだ?」
「辛かった事はあったのか?」

兎に角、色々と聞かれてしまった男は、うんざりしながらも助けたのだから責任を持とうと考えていた。
どうにも、男にはこのエーファを殺す自信がなかった。この手の人間は非常に殺しにくいというのを男は知っていたのだ。

下調べの段階でこういう人間だとわかると男は憂鬱になる。男にとってこういった無邪気で天然気質な人間は非常に自分を癒してくれるからだった。
金の掛からない殺しはあまりしない上に、このような性格。

襲撃した事に対して非常に後ろめたい気持ちを持ちながらもとても強い謎の多き男に興味を抱き、興味津々といった顔色。
男にとって、好きな部類の人間なのは明らかだった。しかし、一つの懸念がある。
過去、こういった人間に関わると碌な事がなく、また付き纏われやすい傾向があったのだった。
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