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十ノ一 八

 虫の紡ぎだす音色が一磨の耳をくすぐった。目を開ければ暗闇が纏わりついてくる。その様からどうやら夜の世界である事を察し、自分が今、屋外に居る事も把握出来たのは、土の匂いと素肌を刺激する小さな痛みからだった。

 頬に僅かな痛みを感じ、鼻は土の臭いを嗅ぎ取った。掌と頬を刺激する痛みを確かめるように、握り拳を作る。その手には砂利が付いていた。

 一磨はゆっくりと手を大地につけて上体を起こす。

「ここは?」
 月明かりが一磨の背中から儚げな光を差し込ませ、一磨の白い手には自身の影が作り成され、乗るようにしている。
 正座をして一呼吸置くと、あらためて立ちあがり辺りを見回す。左右には真っ黒い口を開けた木々があり、前には真っ直ぐと伸びる道。踏みならされ轍(わだち)も無い。綺麗に整備された道の中心で一磨は立ち上がった。

「ラーレさん!」
 一磨は大声を挙げた。ここは異世界だと判っているからこその焦りと不安が顔に滲む。さっきまで内海湖に浮かぶ浮島に居たのに、突然木々に覆われた道の真ん中で倒れていたのだから異世界だって思わなければならない状況だった。

 何よりも一磨は異世界へ行くために祠が映し出す光景へと踏み込んだ。その結果として今、ここに居る。
「どうして」
 搾り出す言葉はどうしたって小さく宵闇に溶けていく。一磨は祠の光が映し出した光景とはまったく違う場所に居る事が理解できなかった。



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