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十ノ一 七

 闇に覆い隠されて行く内海湖を滑るように、湖面を小舟で揺らしつつ一磨とラーレは浮島へと降り立った。
 緊張によるものだろうということは月明かりだけが頼りとなっている浮島においてもはっきり見て取る事が出来てしまうほどに、一磨の体は強張りきっていた。そんな一磨を一瞥しつつ、ラーレは緊張している一磨を微笑ましく思うことなく、目を細めていた。

 日が沈んでからまだ幾ばくも過ぎ去ってはいないながら、内海湖は漆黒の様相を見せている。
 
 月明かりだけというのは存外に人の行動を抑制する効力を発揮する。それが初めて降り立つどんなに狭い場所であったとしても、人は不安に潰されそうになり、怯え始めるものだ。
 その怯えが一磨にはある。当然あるにはあるのだが、その怯えに行動が抑圧されることなく、必死に体裁を保っている。ラーレにとってその姿は滑稽でも、微笑ましくも思わない、感心と無意味な哀愁を漂わせるには十分なものだった。

「教会が全力で整備したものだ。安心してほしい」

 本来ならば夕暮れにはアイリスの地を踏む手筈となっていたものの、術式の再構築。つまるところ帰るために必要な準備に聊か手間を掛けてしまった。手際の悪さに不満を持ちながら、ラーレはそれらに苦言を呈する言葉を吐き出す事はできない。術式構築を行える人間は限られている上に、教会関係者。

 ラーレにとって教会と事を構える。いや、この程度些細な問題なのだろうが、だからこそ付け入られる。
 元々のところ、召喚に際して周期が存在している事をラーレは知っている。その周期が未だ早く、無理をさせていることも承知している。危惧すべき要因はあまりにもラーレの周囲に散在している現状。我慢はどうしたって必要になっていた。



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