十ノ一 五
軍人の名はラーレ・マリー・ライヒェンという長いものだった。
軍人によると本来マリーという名は親しい人が呼び合う名前。書面上では明記するが、普通は名乗らなくとも良い名前だと一磨は説明を受けた。
ラーレからはマリーと呼んでくれて構わないと言われたのだが、とうの一磨にはその名を呼ぶ勇気もなく、事前の親しい者が呼び合う名という事を気にするあまり恐縮してしまっていた。当分は”ラーレ”と呼ぶ事になるだろう。
ラーレはアイリスと呼ぶ大陸に存在するヴォルバルク帝国の軍に所属する軍人だという話を蕎麦屋で蕎麦を啜りながら説明していく。
蕎麦は値段は安く旨い蕎麦屋だと一磨は感じていた。もう少し小奇麗に掃除をすると客が増えそうだとも。
「古来より、僕の世界とラーレさんの世界とは繋がりがあったという事ですか?」
「この内海という土地限定という言葉が付くがね」
ラーレの話によると、古くからこの内海地方はアイリス大陸と交流があったのだという。元々、内海家が支配していた土地柄。十河家は代々内海家に仕えていた武家である。
一磨も一応はその十河家の人間ではあるのだが、本人にはアイリスという単語は聞いた事が無かった。尤も一磨が愕然とするわけもなければ、知らない事を訝しがるなんて事もない。耳に入ってこない、教えられない事が日常茶飯事だったので、知らないけれど十河家は知っていたかもしれない。一磨にとってはその程度の認識だった。
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