十ノ一 弐
十河家。内海地方で名を馳せた武家の一門。かつて、この地を治めた内海家に仕えた家でもある。
その十河家が所有する白い壁に囲われた土地内には立派な稽古場が二つ存在し、内海湖が作りなす朝もやの中でも、竹刀と男達の気迫が響き渡る。一つは門下生を取って指導する道場。もう一つは身内を稽古し、大殿と呼ばれる一磨の祖父との稽古に使用される小さい稽古場だった。道場は表門の前にどっしりと居構えているが、小さい稽古場は屋敷の後ろ、表門から最も離れた場所にこじんまりと佇んでいた。
今、小さい稽古場では二人の男が竹刀を向け合っている。一人は白の総髪を後ろに蓄えている老人。線が細い体つきではあるが、握る竹刀は揺れてはおらず、相手を見据える視線は鋭い。まるで真剣を思わせる鋭利さを兼ね備え、対峙する少年に向けられていた。
対する相手は僅かながら薄い黒の色合いを髪に持つ少年。背丈は老人よりもあり、研ぎ澄まされた綺麗な卵型の顔立ち、なめらかな白い肌が印象深い。
両者は別段言葉を交わすわけでもなく、道場で聞こえてくる裂帛を放ち合うこともせず、徐々に間合いを詰めてはにじり寄って切っ先が揺れ動かす動作が行われている。交わりはしないが離れすぎてもいない。傍から見れば奇妙な間合いだった。打ち込むにしては少し遠いように見える。
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テーマ : 自作連載ファンタジー小説
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