魔王と勇者と暗殺者 第三十四話
遺産をここまで強硬な手段をとってまで手に入れなければならない事態。それは、西にあるであろう魔界の王が動きを見せたのだという推察が出来た。
国家が勇者を擁立し、カインを監視したのも全てはその魔族を打倒するための行動であったからである。
カインはその事を頭に置きながら、行動している。既に村を離れ、単身で西へと渡るための準備を進めていた。
「ジル。夕食を持ってきました。」
窓は開け放たれており、そこからは滑らかな布の靡きと共にそよ風がベッドから上体を起こすジルと呼ばれた男を撫でた。短く切り揃えられた髪には白が目立ち、頬は痩せている。だが、その瞳に宿る生命の灯火だけは未だ衰えを知らず、食事を持ってきたカインを見据えて柔和な笑みへとその顔を変化させていた。
「何時も済まないね。ロイズ。」
「いえいえ。私の方こそ、浮浪者として徘徊していた身。短期であろうとこのような生活をさせていただき感謝しています。」
カインはロイズという名で生活していた。
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