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『藍』

真っ白なお猪口の底には藍色で渦が描かれている。
名のある品ではない。百円で買える代物で近くのスーパーで同じものが売っている。
陶芸の目利きなんて出来るはずもないが、その色は中々に気に入っている。
その渦目掛けて、時に透明で、時に薄らと稲穂の色の液体が注ぎ込まれる。
冷ですっきりといくのか。
常温で本来の味わい深さを大して肥えてもいない下で転がしてみるのか。
はたまた、湯で徳利を熱し、人肌恋しいその暖かさで一人身を噛み締めるのか。
電子レンジでお手軽熱燗で早々に暖まるのか。
さて、そんな事を考えながらも一升瓶を、あるいは紙パックの封を切る。
まずは一献。トクトク、どうしてこう、旨そうな音を立てるのだろうか。
この音で、酒好きはやられてしまう。
とりあえず飲んでから考えようという気になって、肴すら用意せずに晩酌を始める始末。
口に含むのは一気か半分か、はたまた唇を湿らす程度か。
それこそ人それぞれだろうが、大抵は半分程度を飲む。
口と喉を潤して、残りでしっかりと味を感じたい。
素人なりにそんな考えくらいは思いついてのことだ。
晩酌くらいしか楽しみがないのなら、今が一番安らげる時を過ごしている事になるだろう。
だが、しかしだ。
そんな一時ですら、ふとした瞬間、終わりを告げる事もある。
偶然の余韻なんてものが残る事もない。
お猪口の底に藍色の渦が描かれ、それが眼に入る事が必然だから、偶然なんてものじゃない。
そう、今日という、今という一時でしか使う事のないこのお猪口。
だからこそ、藍色の渦があり。
本当はあまり飲めない酒を飲む。
それは、傷を癒すためでもあり、傷に塩を塗りたくるようなものである。
ただ、それを感傷という言葉で片付ける事は出来ない。
いや、したくはないのだろう。
だから、かな。うん、そうだろう。
今日、お前さんみたいな人が尋ねてきたのは必然で、打ち明けて見るのが良いという事だろう。
そのために、来たんじゃないのか。
まぁ、違うとしても腹が決まってしまったからね。喋る事にするよ。
酒は飲めないんだったよな。茶でも沸かしながら話し始めるかな。
始まりはなんだったかな。覚えている限りでは、面識はなかったよ。
うん、言い切れる。向こうは知っていたかもしれない。
今となっては判らないけど、とにかくとして、初めての出会いは夜の自動販売機だった。
アパートのすぐ近くにあるだろう?
駐車場の横に。
同じアパートに住んでいたのに、今まで面識がなかったのが不思議そうだな。
都会なんてそんなものだと思うぞ?
しかし、今思い出しても笑える出会いだ。
彼女はね、飲み過ぎて吐いていたんだ。それがね、また本当迷惑なところでね。
うん、自動販売機の取り出し口。
なんでまたそこへ流し込もうと思ったのか判らないし、後日聞いても覚えてないっていうからさ。
ただ、何か迷惑になりそうなことをしてみたかったんじゃないかなとは思ったね。
その日は丁度、今日みたいに寒い風が吹くのに底冷えのしない不思議な夜だった。
早々に床へ腰を落ち着けて一杯やりたい気分に浸っていた時に、盛大に嘔吐していたな。
まぁ、強烈な出会いだったよ。






続かない。
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