長編小説 山賊は悪党で 弐壱-弐弐
誰もが喜び、誰もが声を挙げた。それは、今まで溜まっていた様々なものが形を変えて吐露された結果だった。人々の鬱憤が、正当化された悪へと向けられた時、人々は新しく誕生した英雄に酔いしれ、悪が滅んだ歴史的な瞬間に立ち会えたという悦喜(えつき)に身を震わせた。
今だけは、ダニエルでさえ、この世界が自分自身を受け入れた事を疑いはしなかった。いや、確信を得た。それほど、彼の顔は狂喜していた。その顔を醜く歪ませている様は、英雄に似つかわしくないほどに獣のような貪欲さを兼ね備えていた。
処刑場の歓声は鳴り止まず、誰もがこの処刑という祭りを楽しんでいた。その狂喜が渦巻く処刑場内で、ただ処刑を待つだけとなったヴァルトは、虚ろな瞳で目の前に広がる眩しい処刑場を眺めながら、不思議がっていた。
てっきり、豚と一緒に宙に浮かぶとばかりに思っていたが、豚が前座扱いにされて、ヴァルトが見上げる先で今、宙にぶら下がっていたからだった。
面倒そうに眺め続けるヴァルトには猿轡が咥えられていない。彼は非常に従順だったので、騎士も大して緊張せずにヴァルトの後ろに立ち、高台に向かわせる順番を待っていた。
うるせぇな。
ヴァルトはそんな独り言を呟いた。それほど、耳に堪えるほど、民衆の馬鹿騒ぎが凄かった。
その様子を、次は高台から拝む側になるというのに、ヴァルトは妙な平静感に襲われている。それもそうだ。民衆の隙間から見知った男をヴァルトは見つけ出していた。
本当に助け出そうとしている事に、嬉しさ半分、馬鹿な真似をと怒る気持ちが半分。ただ、感情を面に出す事はしない。
裁判が終わった後、牢獄へ放り込まれた時に粗方、全ての思いでもぶちまけたからなのかもしれないが、ヴァルトは落ち着いていた。あっけらかんとしていてまるで、抜け殻のようでもあった。
周りの騎士から見ると、ヴァルトは世捨て人に思えるほどに達観している姿に見えたようで、拷問は裁判の前の一回だけに留まっていた。それでも、ヴァルトの手の甲には烙印が刻まれている。罪を犯した者に烙印は押されるが、ヴァルトには右手以外にも、背中や腹に烙印を刻まれている。でっち上げの余罪を含めて、ヴァルトには今五つほどの罪があり、当然ながら処刑になったのだ。
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次回、最終回予定。
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テーマ : 自作連載ファンタジー小説
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