短編小説 背中を押して 六
待っていたのはいつもの日常で、それは本当に何も変わらない日常だった。
僕は寮へ入る引越し準備に追われ、両親はいつものように仕事と趣味に明け暮れていた。
変わったことと言えば、僕が寮生活をするために部屋を片付けた事と、葬式を終えた両親は早々に姉さんの遺留品を処分した事だった。残されたのはアルバムだけという仕打ちだ。
そして、僕が自殺現場に通うようになった。それだけだ。
後は何も変わらない、朝起きれば両親と食事をしてテレビを見て、父は仕事に出かけて、母は適当に洗物を済ませると、同じように家を空けていくだけだ。
僕は、卒業式と寮生活のために移動しなければいけない日が近づいてきていた。
そんな毎日が日々平穏に感じられて、両親は姉さんが始めから居なかったと、思っているかのように、何事も平坦に過ぎ去っていった。
「どうしてだろうか」
僕は一文字ずつ区切って言葉にした。
ベッドに寝転んで、天井をただじっと見つめながら、色々な事を考えた。僕の歩んできた短い人生と、両親の事、そして姉さんの事を考えた。
でも、どう考えたって、あの時の姉さんを救う方法が思い浮かばなかった。あの場面になると、僕は一歩も動けなかった。どんな言葉を考え付こうと、絶対、助け出そうと意気込んで、妄想して見ても、どういうわけか結果はいつも同じだ。
姉さんは飛び降りて、僕は動けないままの光景だけが、脳裏を駆け抜けていった。
「どうすればいいのだろうか」
僕は先ほど同じように言葉を出した。
どうして死んだのか、という意味もあったけれど、もっとドス黒い何かがあった。むしゃくしゃしている、なんていう言葉が今の僕にはお似合いだった。
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