短編小説 背中を押して 参
短編小説 背中を押して 参話
学校の帰り道だった。
姉さんが中学三年生で僕が一年生だった。
僕にとっては当たり前だと思っていた事が、どうやら、学校としては珍しかった事のようで、暫くの間、俄かにざわめき立つ学び舎へ登校する事になっていた。卒業を控える三年生、その中で話題に挙がっていた人物が姉さんだった。
今まで、部活動で沸いた事があったようだけれど、学業でここまで騒がれた事はなかったそうだ。
素行不良で何度も補導され、生活指導されていた姉さんが、県下有数の進学校への入学を決めたからだ。
今まで、僕の居る学校からその進学校に行った人は両手に納まる程度だと、母校で教鞭を揮っている僕のクラスの担任が言ってきた。
その顔は、あからさまに僕への期待が込められていて、迷惑極まりない事だったけれど、我慢できないほどではなかった。
姉さんの合格が知れ渡ってから、学校は俄かに騒々しく揺れていた。どうして、ここまで騒ぎ立てる事が出来るのか僕には判らなかったけど、姉さんはその全てを受け止めているようだった。今までの付き合いづらさは影を潜め、クラスメートでは笑顔が見えて、皆に優しく、先生受けも良くなった。姉さんはきっと、変わろうとしているんだという事が良く判った。他人から見ても、不良が優等生になったのだから、そう思うのも不思議じゃないけれど、僕からすれば、少し意味合いが違って見えていた。
とにかく、姉さんの下駄箱にラブレターが入るようになったし、先生もやたらとおべっかを使い始めた。
僕にも、その余波がやってくると、学校に行くのが少し面倒臭く思うようになった。今まで、注目されてこなかったのが、普通で当たり前だったから、皆からの質問や会話に気分が悪くなっていた。
先生の掌返しを適当に避けながら、姉さんは「帰ろう」と言って、そんな状態だった僕を教室から連れ出したのは、僕のクラスでホームルームが終わった直後だった。
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