長編小説 山賊は悪党で 壱六
ニールの町は歓喜に沸いていた。人々の混乱はあったものの、双子姫は無事帰還し、諸悪の根源である司教は逮捕。共犯だった山賊の頭も捕らえられ、明日には処刑されるという知らせが町を駆け巡り、皆は安堵のため息を漏らした。
ダニエル騎士団長は名実ともに英雄となり、暫定領主という立場ながらニールの町を統治する権利を握るようになったが、その事に誰一人文句を言う事は無かった。
「ヘレナ様とクレア様をダニエル騎士団長たちが救ったそうだな」
「流石は騎士団長だ」
「まったくだ」
「それにしても、司教様が山賊と手を組んでいたとは」
そのような話で町はとにかく盛り上がり、酒屋などは日が出ていようがそれなりに人が入り、英雄の話題に花を咲かせていた。
商人の中でも同じ話を聞く。ザックスはそのような場から離れ一人、宿に向かい歩を進めていた。商談とは名ばかりの世間話の帰り道だったが、ザックスの表情は沈んでいる。
町行く人々が英雄の話に盛り上がり喜々としているだけにザックスだけ取り残されているように存在とその顔は浮いていた。
「ザックスさん」
その時、ザックスを呼び止める声が背中から聞こえてきた。宿屋はもう目と鼻の先だった。
「おや、貴女は?」
振り返ると見た事無い美少女が佇んでいた。町娘の服装だったが、肩まで伸びる赤茶の髪の毛と揃えているように、真紅のローブを着込み、袖を切り揃えた薄い緑の衣類を纏っている。頭には純白の布をカチューシャで止め、胸元に光る少々大きめのネックレスが無地の衣類に彩を加えるかのように自己主張を欠かしてはいない。
思わず、ザックスは目を奪われる。十六、七くらいだろうか。ニールの商家にこれほどの美女が居たのかとザックスは思った。
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テーマ : 自作連載ファンタジー小説
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