長編小説 山賊は悪党で 壱五
冒頭
ヴァルトは手枷足枷を嵌め込まれて、ダニエルの前に差し出された。
進んでいく形式上の裁判に、ヴァルトは川の流れに翻弄される木の葉のようになす術も無かった。発言権があるわけではない。喋ったところで嘘だと断言されて、証拠や証言として認められる事は無かった。
ただ、ヴァルトは力無く笑みを貼り付けて、当事者を抜かした茶番劇を見続ける観客となって成り行きを興味なさそうに眺めていた。
ヴァルトにはヘレナが自分の無実を証明してくれるとは思えなかった。案の定、ヘレナのそばにいつも寄り添っていたクレアの姿が無い。
ヘレナは苦しそうに顔を歪め、涙を溜めながらも目だけは絶対に反らさなかった。ヴァルトにはそれが何よりも嬉しいと感じていた。
ヘレナの姿と居ないクレア。人質として取られていることを察する事が出来ないほどヴァルトは馬鹿ではなかった。
粛々と形だけ進んで行く裁判は予定通り、公開処刑に落ち着き、閉廷する事になった。ヴァルトは騎士二人に連行されて居館の外にある牢獄へと入っていく。地下へ伸びる階段をしっかりとした足取りで歩くが、ヴァルトの表情は暗くまた痛々しかった。
鉄格子で作られた檻の中に入れられ、施錠される甲高い音が地下に響き渡ると騎士二人の軽やかな足取りは遠くに解けて行く。
残ったのは、何も無い静寂だけだった。
目を瞑り事もせず、あぐらを掻いて座り込むヴァルトにはどうする事も出来ない。鉄格子を破る化け物じみた力を持っているわけでも、即座に助けて出してくれる凄腕の仲間がいるわけでもなければ、内通者がいるわけでもない。
ただ、処刑される日を待つだけの時が、ヴァルトに訪れただけだった。
それでも、ヴァルトは何かを考える。無気力で、生きる事に絶望して諦めたわけではないが、どうにもその思いは走馬灯のように、儚くも彩り鮮やかに過ぎ去っていく。
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