長編小説 山賊は悪党で 七
聖都教という宗教が存在する。
多神信仰で世界最大宗教として大陸全土に教会があり、多くの聖職者と膨大な信者を抱えている。
名前の由来は神々や天使が住まう理想郷を聖都とし、そこに住まう事を名誉だとされ、神々が自らを模倣して作られた人こそ、この大地を支配する権利を持った尤も優秀な種族であり、作っていただいた神に感謝し、勤勉かつ優秀な種族である誇りを持って日々を謳歌する。さすれば、必ずや神々は人の行いを知り、神々の住まう聖都へ死後、誘ってくださるだろう。というものだった。
「司教様。私はどうすれば良いのでしょうか」と男は言った。
夜も更けてきているというのに、教会の聖堂には今だ、人が疎らながらも祈りに集中していた。
人々は常に悩み、苦しむ。その悩みを神の使いであると位置づけられた聖都教の司祭や司教らは教会を作り、迷い悩む人々の話を聞いていくのである。
「人という事に誇りを持ちなさい。貴方は神を模した人です。貴方の弱気な姿は神が弱気な姿を見せているも同義。さぁ、貴方は笑い、前を向いて進むのです。そうすれば、必ず神は応え、聖都へ住まう事もできましょう」
ニールの町にも教会は存在し、町の一角と領主城の中に聖堂が作られている。町の教会を統括するのは司教という位を持つ聖職者で、司教は教区と呼ばれる範囲を監督する立場と権限を持たされている。
ニールの町は特異なもので、教区に町と呼べるのは一つだけ。残りは小さな農村だけだった。そのため、農村には無人の教会しか無く、礼拝や神事などにはこのニールの町に来る必要があった。
ニールの町周辺を教区とし、監督するのは一人の司教。今、迷える男性を導いた小太りな男。聖職者の証である、聖服と呼ばれる黒い生地の服で、腰には紫色の布が巻かれている。黒い瞳に短く揃えられた白髪。何よりも突き出たお腹が特徴的な男だった。
「カスパル司教様」
「ふむ。何用かな?」
聖堂で助司祭が声をかけて来るとカスパルは朗らかに答える。
すると、助司祭は身を少し寄せて
「火急のようで、酷く焦っているようです」と呟いた。
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