魔王と勇者と暗殺者 第五十一話
始まりはいつからか。魔王はそんな事を思った。この考えこそ、いつから始めたのか思い出せない。だが、不思議と不毛なことだとは微塵も思っていなかった。
「余が魔王だ!」
勢い良く勇者らに振り返り、マントを靡かせて、腕を一杯に広げた。
その言葉に、カインは特に反応しなかった。
元々、この魔王という存在が強者でありながらも馬鹿であることを前もって体験していたからである。ハルカは至って平然としている。それもそうだ。魔王はハルカに対して殺意を向けては居ない。これが殺意に満ち溢れていたのならば、この部屋に入室した瞬間に剣戟が舞っていただろう。
魔王もその二人には何ら期待をしていなかった。期待していたのはカズヤらであったが、これも予想を裏切った。
唖然としている。三人とも声を出す事も忘れているといった方がいいだろう。今まで磨き上げてきた魔王像がある。美化といっても差し支えないだろう。絶対なる強者。支配者たる風貌に空気を纏っているに違いない。そう思っていたのだろう。心への攻撃は想像以上に強い。だが、魔王もある種の衝撃を受けていた。度肝を抜いて驚いて欲しかったと思っていたに違いない。
見るからに悲しそうな顔をしていた。唇を尖らせている顔が恐ろしいほど似合っていない。だが、逆に言えば封術士はその光景に爆笑を噛み殺しているし、カズヤたちもいきなり戦うという空気にはならなかった。
良い意味で興が殺がれたのであった。
これが、勇者と魔王の初対面であった。到底、歴史的な一場面ではないが、重要な対面に変わりは無かった。
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