魔王と勇者と暗殺者 第五十話
「勇者の人格は書き換えられたようだね」
封術士は魔王と長方形のテーブルを会して向かい合って椅子に座っていた。
遺跡の破壊が完了してから二日。霞みに揺らめく太陽の日が魔界と区別されている空間を照らしていた。門は静寂を保ちながらも、どこか不確かでそこに門があるのかと疑うほど、存在感を消していたのであった。
「問題はないだろう。制御は出来ている上にある程度の記憶を引き継いでいれば良い。そうでなくとも、支障はない」
魔王は、目を瞑りながら、右腕を右の肘掛に乗せて頭を右手で支える格好をしてながらも言葉を発していた。
室内は壁やテーブルの上に蝋燭が何本も立ち並び、炎という熱を帯びた光を作りなしている。いつものように、室内に備え付けられているのかもわからないような光源を使っている様子は無い。
テーブルの上、封術士の前には食事を乗せた食器類が並べられていた。それをゆっくりと食しているのは封術士であった。
「殺意にはかなり敏感になっているようで、心が壊れるほうが速いかもね」
魔王を見る事もせず、封術士の食は進んでいく。
「そうなったのならば、カインがやればいい。男の勇者は開門時に覚醒でもしてもらえれば戦力にはなるだろう」
魔王は、特に何をするわけでもなく、未だに目を瞑っているままであった。魔王の中では、この程度で壊れるような存在ではないと思っている節があった。
過去の勇者においては、少なからずそういった者は居た事だろう。魔王からすれば、その事を知っているからこそ、ハルカの状態はむしろ良好であるという思いがあった。
「で、困ることは逃がした化け物かい?」
「排除は任せる」
その言葉を聞いて、封術士は魔王をこのとき、初めて見やった。そして、笑みを浮かべて見せた。
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