虫籠
異臭が漂う一室の中で少年は夢を見る。
帰れないもう、あの日々に。その夢は何を描く。
眼を覚まし、朝食を食べる。散々と散らばる汚物の間を縫う様に。
ドアを叩く音が響く。煩いと思いながらも冷蔵庫から飲み物を。
流し込まれる琥珀色。どうして、普通で居られたのだろうか。
もう終わらない。始まりもしない。胸には君だけを秘めて。
開け放たれる扉に男の喧騒。椅子に座り、天井を眺めては、怒声に反応せず。
ただただ、時が流れるのを感じ取るだけ。それが全てで思いは伝わる。
拘束されて、輪を掛けて、少年は夢を見る。その歩む先にはまた日常が。
平気で過ごした日々に何の価値も見出せない。だから、変化を。
自分の想いをぶつけた。だから、だから、だから。
心臓は一突きで。苦しまずに。これは失敗だった。少年は過去を振り返る。
今度は絞殺。時間を掛けてじっくりと。汚物が問題だった。
壊れた日常。普通の日常。消えていった日常。始まる日常。
何故。どうして。こんな事。口は開けない。開かない。
死んだ。殺した。死んだ。殺した。
犯人は誰だ。犯人は少年で。犯人は別で。犯人は家族で。
もう、終わりにしよう。呟いた。だから、終わらせた。
何を。全て。時間を終わらせる。
どうしようか。迷ってしまった。それでも成し遂げて
会いたかった。嗚呼、会いたかった。
会いたかったよ。もう一度。もう一度。
愛した人。愛された人。穢れた人。穢された人。
虫籠の世界へようこそ。
嗚呼。外は良い天気だ。
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