短編小説 戦記 アンネリーゼ・ヘルトリング
二月に入ってますますとリヴォルトの地は白く染まっていた。リヴォルトの中心にあるリヴォニア湖は氷を張り巡らせて、その表情は日の光で輝いている。
帝国歴320年。リヴォルト王国は西のグルンヴァルト王国との戦を始めていた。
リヴォルトの国境近くでは、大軍数千余に追われるようにじりじりと後退していく部隊がある。既に、勝敗がついているもののグルンヴァルト軍は追撃の熱が引く事は無かった。
その真っ只中で長刀を振るう女が一人。騎馬に跨り、部下に檄を飛ばして必死の形相であった。それでも、肌は色白く、髪は長々とまるで舞い踊る雪のように白銀であった。
アンネリーゼ・ヘルトリングは戦場の中にありながら、その容貌はとても美しかった。その上に、男に負けないほどの弓の名人。得物である長刀を持てば、男が恐れ戦くほどの戦人(いくさびと)であった。彼女はリヴォルトにヴァルターありと他国にその名を轟かせる猛将ヴァルター・ユーバシャールの弟子であり、右腕と呼ばれるほどリヴォルトでは名が知れていた。
銀色の鎧を着込み長刀を腕で奮いながら、弓は背中に担いだまましっかりと戦い続けている。
ヴァルターと共に、幾多の戦を駆け抜けた彼女の腕に並ぶ事の出来る男はまず居なかった。その彼女は、此度の戦で多くの者が逃げ出し、討たれた中。本陣を逃がすために部下百五十余騎を率いて殿を勤めていた。
味方の裏切りによって側面を抜かれてしまったリヴォルトの軍勢は退かざるを得なかった。
「まだまだ! 気張りなさい!」
「応!!」
アンネの檄に味方の騎士は奮い立ち、アンネのために死ぬ覚悟をした雑兵ら数百余が槍の壁を作り敵を牽制する。敵方は、分散し各個撃破に動いているものの、アンネ指揮のもとで即席とは思えないほどの連携を見せながら後退を続けていた。
そのうちに敵方の後続が到着すると、追撃が緩んでいった。何事かと、アンネは思ったのだがすぐに敵方の武将が軍勢より前に進み出てきた。
「これ以上の戦いは無益だ! 貴公らの護るべき大将は何処へいった! 居らぬものを護って何の為になる!」
その言葉に、その場が静かになっていった。リヴォルトの者らはただ、対峙する数多の敵兵を睨み付けているだけであった。
その時、無駄な口上だとアンネは笑った。その後、その場に居た歴々三百余のリヴォルト兵らも大声を挙げて笑い立てた。
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