魔王と勇者と暗殺者 第四十九話
二人は静かに対峙している。妙に張り詰めた緊張感も、初対面による気まずさもなかった。ただ、あるのは気だるい空気を隠そうともせずに、少女をみつめる男――カインの嫌そうに口をへの字に曲げているかのように軽く唇を突き出していた。眉間には皺が寄っている。
対峙する少女、ハルカは無表情というよりも顔の筋肉が口を閉じさせる行為と瞼を開けている動作だけに集中しているかのように、変化がなかった。使い方が判らないようにも思えるほどであったが、そこには戸惑いというものは微塵も感じられなかった。
「ハルカ」
カインは言葉を出した。少女の名であった。
「私はハルカであるけれど、昔のハルカではない」
返って来た言葉に、カインは間を置いた。
遺跡の破壊が終わり、勇者らは地上へと戻ってきた。ハルカはハルカで無くなるということが起こってしまった。
カインは一先ず、このハルカに対して説明する事をから始める。戦う事を避けるためにも、この説明は大切であった。
「どの程度、記憶を残している」
カインからすれば、予想はついている。それでも、形式上は聞いておきたかったのであった。
「私として存在した時から」
案の定の回答に、さして驚く事もしなかったが、頭が痛むのか多少顔を顰めてしまっていた。
「……そうか。説明しておく。俺の名前はカインだ。一応、お前を護る役割を担う」
「護られるほど弱くは無い」
その通りではある。今のハルカは魔力の鎧を纏い、物理攻撃も魔力攻撃も弾き返すことが可能だろうと言える。それほどの力を持つようになっていた。
「判っている。ただ、俺は護るという役割を演じるだけで、お前はそれを容認しているだけでいい」
「何故?」
カインは、面倒くさそうに頭を掻いた。出来る事なら、今すぐにでも魔王のところへ持っていき、代わりに説明してもらいたいとで思っているようであった。
「頼まれたからだ。説明していく」
カインは、疲労感が漂う身体に鞭打って、説明を始めていくカイン。その光景を、遠目で眺めているのはカズヤ一行であった。
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