長編小説 魔王と勇者と暗殺者第四十五話
広かった。その空間はただただ広かった。そこは果たして屋内なのだろうかと疑問に思わざるを得ないほどの広さであったが、それは薄暗さ故の錯覚に過ぎない。目を凝らせば壁が見えてくるのが判る。近づけばはっきりと見えるだろう。壁が蠢き、悲鳴を挙げていることが。
その胎動を認識するともう、この空間は異質であることを理解しなければならない。生い茂るは、人の躯を貪る木々に、壁には悲鳴を挙げながらも化け物を産み落とす女が数多に見えてくるだろう。
光源は定かではない。壁の所々が発光しているだけに過ぎない。その光に影を作りながらも、女達の悲鳴が挙がり続けては疲れたように身体を垂らす。落ちる事は無い。腕も足も壁の中に埋まっているのだが、女達の下には木々の根が張り巡らされ、脈動している。
その網の中に一際は暗い空洞を見つける事が出来る。
そこから這い出てくるのは異形の化け物たちで化け物が這い出てきては女達は叫びを挙げる。ただただ、挙げる。
その光景全てが理不尽と非現実の共存。その不確かな現実の世界で一人、たった一人で孤独を怒りに変えて己の力を奮う勇者の姿が薄暗い世界で影を躍らせ、自身もまた舞い踊る。
「思った以上にやる」
その声に触発されたかのように、ハルカは化け物に襲い掛かった。線となるほどに加速するハルカの目の前にマルセンとイーナが割って入ってくる。ハルカは顔を顰めつつも、マルセンの剣による一撃を受け止めた。そのときには、既にイーナの詠唱が終わらせ、炎の蛇がハルカへと向かってきているところであった。ハルカは避けようとするも、マルセンの力によって逃れる隙がなかった。
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