魔王と勇者と暗殺者 第四十四話
「おい。落ち着け」
護衛の槍使いが言葉をかける。
「でもさ。おかしいだろ」
「確かにな。だが、だからと言って急ぐ必要はない」
「味方だとは限らない。だろ?」
カズヤはそう言いつつも走る足を止める気配はない。
入る部屋、通る通路に散らばる化け物の死体。加えるならば、施設と思わしき装置が破壊されていた事も、カズヤが急ぐ原因でもあった。
何より、先ほどの爆発音で拍車をかけた。
「判っているんだよ。それでもさ。もしって考えると」
その言葉に、護衛の二人はカズヤの意志を尊重させる事を決めた。今まで、カズヤの心を考えて行動する事の多かった二人である。今回もまた、それを実行したまでであった。
「判ったよ。急ごう」
だが、その心情の中でも変化は確実に起こっていた。カズヤ自身への放任を許容する動きである。
護衛の二人はカズヤの感情の爆発を経験している。それは、力の暴走であったこともあれば、己の中で護っていた何かが壊れること恐れての凶行もあった。その経験があるからこそ、二人はほっとけないある種の保護欲に駆り立てられていた。
それも、オーク討伐を経てカズヤは格段に精神の成長が起こった。訝しがったのは始めだけで、後はカズヤ自身の内面性に任せるという事になったのであった。
「サンキュ」
「ん。あぁ、気にするな」
「まぁ、俺らは護衛だからよ」
その感謝の言葉に何処かむず痒さと共に、若干の寂しさを感じてしまった二人であった。
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