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十ノ一 九

 祖父の夢を見た。どうしてだろう、という疑問よりもまず先に、夢の中の一磨は土下座をして謝っていた。
 夢だと気付いたのは自分がその光景を上から――天井裏から覗き見ている、そんな感覚を覚えたからだった。それほど、視点だけしか動かすことのできない一磨は上から祖父の姿を見ただけで恐れ、委縮してしまった。

 祖父の顔を眺め見ると表面上では怒っているようにはとても見えなかった。祖父の事を知っている人物であったとしても、その顔色に激怒が混ざっている事を察することは難しい。
 そも、一磨であっても本当は、怒っているかを正確に判断出来ているわけではない。純粋に、一磨にはその無表情ともいえる顔が怖かった。
 いつもの顔。稽古でも出会いがしらでも、一磨にはその顔以外に祖父の顔を知らない。有り触れた恐怖の対象が夢の中で仁王立ちして土下座している一磨を眺めていた。

 謝罪の言葉はうやむやで上から覗いている一磨には聞こえない。けれども一字一句、悲しい事に判ってしまっていた。
 本心からの反省など微塵も含まれていない、ただ痛めつけられる事だけを回避しようと必死になっている。水面だけを波立たせ激しい感情の起伏を演出している様。これほどに滑稽だと思ってしまったのは一磨自身における心情の変化からなのだろうか。ただその思いも一瞬で終わりを迎える。
 上から覗く一磨の視点はゆらめき、やがては白濁してとろけていった。




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予定としては主人公が異世界に来てから一カ月以内の物語。となっていくのかな?
いや、なれば良いな……。

全然進んでないですけれどね。内海にいた時から、三日しか経ってないという。
そして、次回はその二日から三日目までですからね。

そこまで行くと、ちょっと時間が飛ぶ予定。まったり書き直したいところです。
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テーマ : 自作連載ファンタジー小説
ジャンル : 小説・文学

十ノ一 八

 虫の紡ぎだす音色が一磨の耳をくすぐった。目を開ければ暗闇が纏わりついてくる。その様からどうやら夜の世界である事を察し、自分が今、屋外に居る事も把握出来たのは、土の匂いと素肌を刺激する小さな痛みからだった。

 頬に僅かな痛みを感じ、鼻は土の臭いを嗅ぎ取った。掌と頬を刺激する痛みを確かめるように、握り拳を作る。その手には砂利が付いていた。

 一磨はゆっくりと手を大地につけて上体を起こす。

「ここは?」
 月明かりが一磨の背中から儚げな光を差し込ませ、一磨の白い手には自身の影が作り成され、乗るようにしている。
 正座をして一呼吸置くと、あらためて立ちあがり辺りを見回す。左右には真っ黒い口を開けた木々があり、前には真っ直ぐと伸びる道。踏みならされ轍(わだち)も無い。綺麗に整備された道の中心で一磨は立ち上がった。

「ラーレさん!」
 一磨は大声を挙げた。ここは異世界だと判っているからこその焦りと不安が顔に滲む。さっきまで内海湖に浮かぶ浮島に居たのに、突然木々に覆われた道の真ん中で倒れていたのだから異世界だって思わなければならない状況だった。

 何よりも一磨は異世界へ行くために祠が映し出す光景へと踏み込んだ。その結果として今、ここに居る。
「どうして」
 搾り出す言葉はどうしたって小さく宵闇に溶けていく。一磨は祠の光が映し出した光景とはまったく違う場所に居る事が理解できなかった。



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十ノ一 七

 闇に覆い隠されて行く内海湖を滑るように、湖面を小舟で揺らしつつ一磨とラーレは浮島へと降り立った。
 緊張によるものだろうということは月明かりだけが頼りとなっている浮島においてもはっきり見て取る事が出来てしまうほどに、一磨の体は強張りきっていた。そんな一磨を一瞥しつつ、ラーレは緊張している一磨を微笑ましく思うことなく、目を細めていた。

 日が沈んでからまだ幾ばくも過ぎ去ってはいないながら、内海湖は漆黒の様相を見せている。
 
 月明かりだけというのは存外に人の行動を抑制する効力を発揮する。それが初めて降り立つどんなに狭い場所であったとしても、人は不安に潰されそうになり、怯え始めるものだ。
 その怯えが一磨にはある。当然あるにはあるのだが、その怯えに行動が抑圧されることなく、必死に体裁を保っている。ラーレにとってその姿は滑稽でも、微笑ましくも思わない、感心と無意味な哀愁を漂わせるには十分なものだった。

「教会が全力で整備したものだ。安心してほしい」

 本来ならば夕暮れにはアイリスの地を踏む手筈となっていたものの、術式の再構築。つまるところ帰るために必要な準備に聊か手間を掛けてしまった。手際の悪さに不満を持ちながら、ラーレはそれらに苦言を呈する言葉を吐き出す事はできない。術式構築を行える人間は限られている上に、教会関係者。

 ラーレにとって教会と事を構える。いや、この程度些細な問題なのだろうが、だからこそ付け入られる。
 元々のところ、召喚に際して周期が存在している事をラーレは知っている。その周期が未だ早く、無理をさせていることも承知している。危惧すべき要因はあまりにもラーレの周囲に散在している現状。我慢はどうしたって必要になっていた。



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