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魔王と勇者と暗殺者 第十話

男は身体にかけられた魔法、そして探知アイテムの解除に成功してから二週間ほどこの村で生活をしていた。
エーファは男の事を知りながらも、武者修行という嘘を貫き通すためかどうか判らないが、村に居座り、森に行き、個人でまたは男と共に行動する日々を送っていた。

二週間前よりは確実に身体の動きは良くなっていたのだが、男自身、剣士として指南できる人間ではなかったので、基礎的なものをエーファが男と行動するうちに盗んで練習しているだけであった。伴ってエーファの生傷も増えているのも事実である。

「そんな事、信じられません!」

魔術師が叫ぶ。

「事実だ。」

男は何時もと変わらない声質と淡い瞳で応える。

「私は何も聞いていません!」

「君がどんな身分かは知らない。だが、これは事実だ。」

この程度の事を知らないで驚く。組織のあの女は俺が世俗に疎いと言ったのに、コイツラは俺以下か。等と男は思ってしまった。勿論、男の情報が世間に出る情報ではないのだが。

「貴方のような訳のわからない人の事なんて……!」

「私は…。信じます。」

勇者と呼ばれる女剣士は男を見据えたまま、そう呟いた。

「勇者様!」

「……俺もこの言葉には信憑性がある。」

「アレンさん。」

「……アレン。説明できますか?」

「この男は相当の実力者だと言う事が判る。その男が俺達と対等な立場での話し合いを設ける事がまず一つ。」

男は心の中で自嘲する。買いかぶりすぎな奴がいて助かると。

「もう一つある。この男は嘘を言っている眼じゃない。」

「アレン…。アレンが言うのなら……そうなのでしょう。」

勇者側は最初、フードをはずし顔を見せる事を提示し男も了承していた。そしてアレンと呼ばれた男はフードをとった男を見つめていた事。
背中に嫌な汗が流れるのを男は感じていた。仮定でしかないのだが、それでも危惧しなければならない問題。

レアスキルの可能性。
一介の弓使いが勇者の護衛と恐らくは貴族か王族血縁の魔術師のお供。余程腕が立つであろうと事は男には判りきっている事ではあったが、それ以上に今の何気ない発言に恐怖せざるを得なかった。

「此方とはしては最大限の情報提供を約束しよう。俺は君達の情報も欲しい。」

「判りました。イーナも良いよね。」

「私は、勇者様に従うまでです。」

どうやら、洗脳はあくまで口上の範囲でのようだ。男は一先ずの安堵を覚えていた。
魔法による洗脳ではまた老婆に手を借りなければならないだろうが、その事は流石にこの村の住人達も容認するかどうか。

彼らからすれば自分達のスキルが通じない人間が男以外で来た事に対する驚きもあるのだろう。

この村にはスキルによる保護が存在している。
男はそれを受け入れているから入る事が許される。数十年以上前、森で拾われ、殺されそうだった男を村は許容し、存在を肯定した。

そこには男がおぞましいほど生に執着し、この村に住む人々に恐怖と、ほんの僅かな光を与えた事による偶然によって、男にはこの村に入る事を許可され、さらには男自身も受け入れているのだった。
エーファは男が連れてきた人間であるために男による説得の後に受け入れられている。それは一時的なものであり、今でもエーファに対しては村人達は、殆ど受身である。

最も、長老含めた村の高齢者達は、男の連れてきた女は婚約者だと思い込んでいるので割りと話しかけたりする場合もあったりする。

話を進めていく内に男は状況を理解していくと同時に自分の勘が当たっていたと感じていた。
主従関係は勇者を頂点に魔術師弓使いというようで、物事の最終決定は勇者であるが、議論による決定が主になっているという事。

勇者一行は男が魔法をかけられた国の王からの勅命によって魔王退治をする事になった事。その一環としてこの地域に巣食う魔族の討伐を王から命じられ、この村に来て殺人を犯した事。そして殺したのはイーナとアレンで、勇者は人を殺せていなかった事。

「一つ。気になる事がある。これは勇者自身に関する事だ。答えたくなければ答えてくれないで構わない。」

「ハルカ。と呼んで下さい。勇者と言われるのには未だに慣れていなくて…。イーナにも言っているんですけど。」

「勇者様は勇者様です。それに、このような男に名を許すなど…。」

「良いよ。減るものでもないでしょう?」

「なら、ハルカ。君は俺と対峙した時に、この世界の事を知らない。これに似た事を喋っていたが。」

「…私は―――」

「勇者様は記憶喪失なんです。召喚の儀によって勇者選定を行ったのですが私が未熟なばかりにこのような不憫な事に…」

「…イーナ。」

「そうか。すまなかった。」

「いえ」

話せないか。

男は一先ず、後回しにする。勿論非常に、興味がある事ではあるが、ここで辺に食いついても訝しがられるだろうし、今後の関係にも悪影響だと判断した。
個人に関わる事だ、安易に教えたくない気持ちは男にも痛いほど判る。だが、男はその気持ちをわかっていながらも、他人の個人情報を知りたがる癖があるのも理解していた。

男は状況を整理する事にした。ギルドからの依頼は無いと踏んではいたし、勅命だろうとも予想していた。予定通りである。これ以上の追撃の可能性はない。

これ以上、王の命でこの村の排除に動くとなると世間もその動きに気付くはずだ。そうなると困る事に、今度はギルドが動く事になるだろう。。ギルドの長達には、この村出身者も居るためでもあるが、ギルド自体が討伐対象に指定していない上に、この村と同じように異人と呼ばれる種族の存続賛成派なため、国家が動いた場合はギルドが介入してくる。

そうなれば戦闘にはならずに国家は存亡の危機に瀕することは眼に見えていた。ギルドに所属する人間の数は膨大だ。

各国軍の兵士の訓練項目にギルドに登録することで任務を受け討伐を行う事もある。さらに各街の雑務から害獣被害などの対応をギルドに丸投げしている。
ギルドが各国に今後一切の依頼のやり取りを拒否する場合、経済打撃だけでなく、近隣住人の生命にも危険が迅速に進行してしまう。この事を王が理解していないわけではないだろう。

この事から、もう表立った追撃はない。あるとしても他国の勇者が来るくらいだろう。それは十二分に脅威だ勇者達が、この村の防御を打ち破って侵入してきた事は事実である。
他国の勇者も同等の力を持っている可能性が高かった。だが、今回は一国の王の独断ではないかという思いが強い。さらに言えば、勇者がここに来た事は自身の駆除が目的の一つでもあったのかもしれないと考えていた。

男の探知と感知が消えたのがこの地域でこの村であった。ならば男は異人の可能性が高い。もしかしたらこれは村共々一網打尽にできるのかもしれない。王にそんな思惑があったのではないかと男は考えている。

一先ず、その思惑通りに行かなかった事に感謝する事にした男は、今後の行動を考えなければならなかった。
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魔王と勇者と暗殺者 第九話

「話を聞いてください。」

男の目の前に女剣士が佇んでいた。男の横にはエーファが倒れている。気を失っているだけだ。呼吸を微かに感じながら、男はこの状況の危険性を感じていた。
相手は3人。女剣士に弓使いの男。杖を持つ女。3人が村の門から侵入したのは判っている。村人を殺したのも。理由は判らないが、目的は俺以外。

つまりは村そのものが目的。たった3人で村人を殺すのだろうか。だとするのなら相当腕が立つ。だが、エーファを殺す事は無かったのは幸いか。
この子にはこんな所で死んで欲しくはない。そんな事を男は思いつつ、間合いを開ける。ゆっくりと。

「二人をどうにかするつもりはありません。私達は貴方達を助けたいのです。」

解せない事を言う女だ。と思ったが合点がいった。この村の駆除。男はため息をつく。女達は訝しがっているが男にとってどうでも良かった。

この村に住む住人は人間種にはなるが、異人と呼ばれる者たちの一族であり、常人よりも魔力が高い事が特徴でとても長寿なのである。
知識の探求を趣味としながらひっそりと暮らすのには訳がある。彼らを弾圧し根絶する運動が過去に起こったためだ。
それは遠い昔の事であったが今でも、それらは脈々と受け継がれていた。忌み嫌われる者達として。

「私達は魔王を討ち、そしてここを支配する魔族を討つためにきました。」

男はフードに隠れた顔を歪ませる。勇者とかいう連中か。男は静かに唇と動かした。3人の後ろには村の住人が隠れて居たために、出てくるな。と口を動かしていた。
読み取ってくれたかどうかは判らないが、住人達はこのまま身を潜めてくれているようだ。男の後ろにも数人の住人がいるが、動く気配を見せない。

彼らも迂闊に動くと男に迷惑がかかることを理解しているからであった。相手は恐らく、洗脳に近い状態だろう。魔術師を先に殺すべきだな。男はそう考える。

洗脳されている状態では弁明しても意味がない。だが、万が一。僅かな可能性に賭けて話しかける。3人はバランスが良い。男には分が悪かった。

正面から戦うのは戦士や騎士で十分であり、男は戦士でもなければまして騎士という忠義を持つ義士でもなかった。
奇襲や奇策を用いても、遠距離の弓使いが居るために返り討ちにあう可能性の方が高い。魔術師よりも攻撃が素早く、剣士よりも間合いが広い。
弓使いの男が緊張している具合から、動いたら迷わず射ろと言われているのだろう。今この状態でも弦は引かれている。

「一つ。誤解がある。」

「……何でしょうか。」

ふと、女剣士の顔を見る。不安に胸が一杯で顔色が悪いのが伺える。素人か。人間を殺す事に抵抗を持ち、未だに踏ん切りのついていない。
中途半端な心情であるようだった。

「この村は過去に災いを呼ぶ異人。人を食らう魔族。などと言われ虐殺の限りを受けた者達だという事は知っているか?」

「異人は人々を襲い続けていました。当然の報いを受けているのです。」

魔術師が声を挙げる。言葉遣いや僅かな挙動。型に嵌っているのが良く判る。この魔術師は何処かの国に仕えているのだろう。
それなりに位の高い人物。男はそう推察する。

「彼らが人を襲った事はあるだろう。彼らも人という形を成す存在だから。」

「では、何故貴方は!」

「人間もまた人を襲う事に変わりは無い。そのことについては些細な事。」

「ッ!」

女剣士の顔が変わる。悲痛さがにじみ出てくる。対峙しているのにも関わらず視線を下げてしまっている。
隙だらけであるが、後ろにいる弓使いが邪魔でしかなかった。3人の中で一番の使い手だろう。男は感じ取る。
人を殺した経験を持ち、その事を受け入れている。故に、今緊張感を持ちながらフードで顔の半分も見えない得体の知れない男の挙動に神経を尖らせている。
フードの男から感じられる強さを感じているのは恐らく弓使いのみだった。

「落ち着いて欲しい。今更、歴史は嘘だったと弁明するほど愚かではない。が。この村に住む人々は魔族では決してない。」

「村にいた貴方の言葉など信用できません!」

「村に滞在していたからこそ。見えてくるものもあるのではないか?」

「そんなもの…!」

「待って!」

「勇者様…」

「ごめん。私はこの世界の歴史とか全然判らないし少ししか教わっていないけど―――」

大丈夫か?男はそんな事を考えてしまった。魔術師と女剣士もとい勇者が会話し始めた。男は弓使いに同情してしまうと同時に教育がなっていないとも思った。
この状況なら弓使いの初撃を避ければどちらかの女を人質に出来るか。そんな事を考え始める。武装はある。服の中にも腕にも仕込んである。

腕を向けても不自然でない状況になればいつでも動ける。だが、一つ、気になる事があった。
その事について男は興味をもってしまったので、殺す事はやめ、会話による解決を第一にして行動する事に決めていた。だが、腕はいつでも動かせるようにしておく。

「すまないが。良いか。」

「え、あっ!すみません。」

「俺が言いたい事は、少なくとも、君達が殺す意志を見せなければここの住人は絶対に君達を襲う事はない。」

「そんな戯言を信じる事など!勇者様、口車に乗る必要はありません!アレン!」

「やめて!」

弓使いは矢を射る。良い反応だと男は思いつつ初撃を避ける。男の後ろに立っていた住人に命中し崩れ落ちた。長い間狙いをつけられていたのが幸いし、何処に凶器が飛んでくるのか予め予測する事ができた。後は、間隔を合わせて身体を動かすだけで済んだのだった。

「今の攻撃で一人の命が散った。その事について何か言う事はあるか?」

「何もありません!魔族の手下が何をぬけぬけと!」

魔術師がどうやら酷い洗脳を受けているようだ。男の推察ではあの魔術師が勇者と弓使いに洗脳をしていたはずであったが。
そんなことを考えていると乾いた音と共に魔術師の頬に赤い手形がつく。

「もう、やめて。イーナ。」

「ゆ、勇者様。」

「すみませんでした。お話を詳しく聞かせてください。」

そういうと、勇者は頭を垂れた。

「勇者様!」

「イーナ様。」

「アレンまで…」

「勇者様がこう言っているのだから。」

「……判りました。」

3人は一先ず、落ち着ける事ができたようだった。

「長老。」

「判っておるよ。我々は殺されながら生きてきおった。理不尽にはなれておるよ。」

彼らは、長年。虐げられてきた。今の達観した価値観はそうした理不尽が積み上げてきた同胞の屍の上に立つ者として歯向かう事をせず。

ただ安寧を願いひっそりと生きていく。その考えが作り上げたものだった。射殺された亡骸を涙も流さずに運ぶ住人達。
殺した張本人が目の前に居るのに、彼らの眼には憎悪も恐怖も無く。ただそこに光の消えた二つの眼がついているだけであった。
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魔王と勇者と暗殺者 第八話

エーファは男がこの村に来た理由を聞かされてから、男に対する対応に変化が出てきていた。男はその事を知っていたが、特にどうこう話しかけるわけでもエーファに改善を要求する事もしなかった。そう行動していたのだが、エーファは日に日に顔色を悪くしていき遂に男へ話しかける。

「…本当にそれでいいのか。」

「……復讐しろと?国家に?」

「い、いや。そんな事ではない。お前の心の問題だ。」

「それこそ…関係ないとは思わないか?」

「………。」

「君が悩む必要は何もないだろう。案じてもらえる事は素直に嬉しいが―――」

男はそこで一端、言葉を切った。エーファは顔を背けているがやがて男を見据える。誰かが見ているな。男はこんな人に聞かれそうな外で話しかけられ、受け答えしてしまった事に後悔していた。

「それは、押し付けになる。善意は人によって変化するものだよ。」

「…ッ…。私は、そんなつもりなんて!!」

「……だからそれを学ぶのは大事だとは思わないか」

「……。」

「君は十分に善人だよ。それだけは何時も信じていいはずだ。」

「善人だからって……。人に何かを押し付けていいわけでも強制していいわけでもないだろう…。」

男の目の前には一人の女の子が立っている。必死に胸を張って、一人よがって何かに対抗しようとしているように男には見えた。歪むその顔。その脳裏には何が見えているのだろうか。男はエーファを良い所のお嬢さんと言い切った節がある。彼女にはそういった空気や立ち振る舞いがあるのは確かであった。

「深く考えすぎだな。君の立場上。そうなってしまうという事か。」

「…何を…。」

「良くは知らない。面倒だから教えてくれなくて構わない。」

「……すまない。私は……。」

エーファは酷く汚い顔をしていた。醜い顔。汚れた自分自身を心底嫌っている。男はエーファに対してそういう気持ちがあると考えていた。

「もう少し、自分自身を考えて自分で行動し考えられるようになれるようにな。」

「……ふぅ…。同じ事を、昔言われたんだ。」

「進歩がない証拠だな。」

「ハ、ハハハッ。その通りだな。…変な事を言ってすまない。」

「あぁ。次からは気をつけてな。」

「努力するよ。」

エーファはそういうと弱弱しくも男に向けて笑みを浮かべ、滞在中泊まっている家に入っていった。暫くは出てこないだろうと男は思ったが、森へ向かう準備を始めた。ギルドからの依頼のためである。
エーファは何時も声を掛けるわけでもなく付いて来ていたが、流石に今回は付いて来る気配はない。

エーファは今、男と組んでいるという認識を持たれた上でこの森への侵入を許可されている。このことによって、男はわざわざギルド支部へ行き、入る許可証を発行してもらう事を行った。人相書きをばら撒かれても居ないので、多少の変装をして現在でもギルドの依頼を受けている。登録も別途に行う事もせず幾つかの名前の内の一つを使っていた。

何故、ここまでしなければならないのか男には理解したくはなかったのだが、老人達が予想以上に男の婚約者だという認識が強く、嫁のために云々と小言を言われるのだ。
その事が面倒になってしまったので、エーファには面倒なので暫くはこの状態で行くという旨を伝えてある。

エーファはというと、単独行動をしていたにも関わらず、暫く村に滞在させてほしいと老人達に頼み込んでいたのだ。それを男は老人から言われ、住人の説得に苦労していた。
結局、滞在自体は許可されることに落ち着いた。男としては、エーファを引き剥がしたい思いがあったのだが、エーファとしては腕を磨きたい思いが強かったらしく、男にも懇願して稽古を付けて欲しいと駄々を捏ねていた。

男は決してエーファに指導する事はしなかったが、狩りについてくることを拒む事はしなかった。結果的にそれが訓練になるだろうと男は考えていた。
助ける事は絶対にしなかったのだ。死ぬほどの怪我を負いそうになっても男は助ける事をしなかった。その事をエーファは怒る事もせず、ただ、自分の未熟さを呪っているようにも感じられる空気を纏う事があった。

何度も怪我を負い、時には重傷を負う事もあったが、その時は治癒者に頼って部屋に篭る事もあった。
男は、森を進む中で、そろそろ行動を起こす事を考えていた。何時までもここに居るのは宜しくないと、考えるとともに、エーファにも戻る所に戻って欲しいと願っていた。

盗賊の討伐依頼を受けて、盗賊を殺す事があったのだが、エーファは人を殺す事が出来ないで居たのを男は思い出していた。あの時のエーファの顔は恐怖に引き攣っており、普通の女の子でしかなかったのだ。男の顔は歪む。

子供が背伸びして大人になりたがる。そんなものだろうと考えているが、この生活でそれを望む者が死んでいくことは常識である。

それゆえに、エーファにはそういう醜い死に方をして欲しくないという考え方を持っていたのだった。

一頻り思案していた男は暴れている気配を感じながらその方向へ向かう。昨日に罠を仕掛けておいた場所には、魔物が一体捕獲されていた。醜い顔をしていると素直に思えるその容姿は何処か人間にも似ている。男はその自分の胸ほどまでの体長を持ち、長い爪で何度も罠を破ろうともがく魔物を見てそう感じていた。人間も魔物も根の汚さが同じ奴がいるという事を知っているから尚の事、男にはそう思えてしまったのかもしれない。

魔物とは何なんだろうか。

魔族とは―――。ふいに駆け巡った事は長い間殺してきた魔物に関する知識を男はあまり持ち合わせては居ない事に気付く。

魔物と眼が合うと、激しいうめき声をあげて戦闘体勢に入る。依頼は捕獲。このような魔物を捕まえてこいという依頼は学者の研究に使われるものが殆どである。学者達もまた、男と同じく魔物とは魔族とは何なのか。それを探求し続けているのである。判っている事は少ない。

世間に流れ出る情報の殆どは大まかな生息地域、特徴。狩る際の注意点。習性。後者の習性に関してはランク付けもされていない動物と殆ど変わらないような魔物ばかりの情報だ。男は背負っていた弓を取り出す。小さい弓だった。腰にさげていた鉄の棒には穴が空いており、そこへ矢を刺し込んだ後に、構える。矢は湿っていた。

放たれる矢を避けようとする魔物であったが、捕縛されている足を狙っていたために、命中し悲鳴をあげる。後は、弱って睡眠するのを待つだけであった。即効力があるといっても数分はまたなければならない。魔物に聞く薬物もまだまだ研究不足だった。

妙に頭が重いと感じながらも、眠りについた魔物を縛り上げて、布の袋に閉じ込めてその場を後にした。 駄文同盟 にほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ bnr.gif image113.gif 小説・詩

魔王と勇者と暗殺者 第七話

「まさか、お前さんが女を連れて帰ってくるとはな。」

焚き火を囲み座り込む人影が数人。その内、男とエーファの対面にいる老人がしげしげとそんな事を言った。
男は、同じ事を村に入る前と入ってから、少なくとも4度は聞かれていたのでもう、弁明するのも面倒になっていたので、特に訂正せずに話を進めた。
エーフェも空気を読んでいるのだろうか、特に口を挟む事もせず、静かに男の隣に座っている。

男はこの経緯を説明し、村にいる治癒者で自分に掛かった魔法を解除してほしいと頼み込んだ。老人はふむ。と頷くと顎から鎖骨あたりまで伸びた白髭を撫でている。
男はその動作を懐かしそうに眺めていた。10数年も昔にここを出て世界を放浪し、ある組織に入った男にとってここは故郷と呼べる場所だった。
この村に治癒者が居る事を忘れてはいたが、この村の存在を忘れる事は無くてよかったと、男は密かに安堵していた。

「もう、式はすませたのかのう?」

老人は目を光らせる。それが焚き火の光だったのか、老人の成したモノなのか判断がつかなかったが、男はとりあえず、話を進めたいと思い、後でゆっくりその事で話すから。と言い、強引に進ませようとする。老人は残念そうにそうか。と言い

「これ、婆さん。聞いておったか。」

隣で眼をつぶっている老婆に話しかけた。

「今見てみたが、これは中々のモンだよ。」

男は息を呑んだ。この老婆がそこまで他人の魔法を褒めた事が過去に二度しかないからだった。
その二度が二度とも、やれ魔人の魔法。やれ、悪霊の呪いだの。という人知を超えた代物であったからである。この老婆が治癒者。という事を男は知らなかった。

この老婆は巫女と呼ばれる聖職者なのは知っていたが、治癒者だったとは。男は長年謎だった老婆の本当の肩書きを知りえた事が逆に嬉しく思えていた。
男は、少々考えるとエーファには一回席をはずして欲しいと頼んだのだが老人が嫁に隠し事とはけしからん。
などと怒鳴り、エーファも知りたいと駄々を捏ねたために男は大きく肩を落とし、事情を説明する事になった。

「な、なんという事だ。」

「難儀な事じゃのう。」

「何時も世の中の理不尽は変わらないものだねぇ。」

エーファは国家が人を使い捨ての道具のように扱う事に驚いているようであった。まだ知らない事が沢山あるのだろうが、いきなり厳しい現実を聞かせてしまった。と若干の後悔を男は感じてしまった。
老人達はしみじみとしていた。男もフードで見せないが眉間に皺寄せた。

彼らはこうしてひっそりと住むにも理由があるからだった。今ではギルドに自治を暗黙の元で認められているようにはなったという事実。

それはここの住人の能力を対価にしているだけの事だ。彼らは知識人として非常に優秀であり、また魔術師としても希代の大魔術師と呼ばれるような人物を世に送り出している。
そういった著名になったもの才能を認められた者達は出生を秘匿され、管理されながら表の世界で生活していったのだ。

「話は判った。アタシに任せておきな。丁度弟子も出来たからね。二人がかりで行くよ。」

老婆によれば、人の魔法は魔物や魔族よりも解除が難しいという。そこには感情という不確かな流れの存在と同族同士というモノも大きく、人の恨みや決意などがこうした感染型魔法への依存率が高い。
老婆に言わせれば、悪霊の呪いや生者の意志は同等の怖さを持っている。老婆はそんな事を言いながら、解除の準備のために男を別室へ案内する。

解除後はどうしようか。男はそんな事を考えつつ、指定された術印の中心で座り、瞑想する。
組織に直ぐ戻るのは出来ないだろうし、感知、探知が消えたとなると追っ手が掛かるかもしれない。この村に危害を加える愚かな事はしないだろうし、あの森を抜けて行軍してくるとも考えにくい。場所がバレてしまっていても、元々権力者はこの場を知っているので問題ではない。

当面は、ここにお世話になるのも良いか。と考え付く。相手が暗殺者を送り込むにしてもこの村ならば雑魚が侵入する事すら出来ないだろう。逆に腕の立つ者を送ってきた方がやりやすい。
男にとって同業者の協定を知っているし、彼らとの交渉術も経験も数多にある。戦闘にならないですむ方法は幾つかそろえる事も可能だった。

エーファは事情を知っているが口封じする気もないので、移動したいのなら森を抜けるまで付いて行けば死ぬ事もないだろう。男はそう決めると、冷たい水を頭から被せられた。
すると、水が術印に染み渡り、白く発光する。

「そいじゃあ、始めるよ。強いからねぇ。半日は覚悟しなさい。」

男は頷いた。 駄文同盟 にほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ bnr.gif image113.gif 小説・詩

魔王と勇者と暗殺者 第六話

「ハァァァ!!」

その声と共に、刃が男のフードの先を通り過ぎる。男はその大振りな一撃を最後まで眺める余裕を持ってそこに立っていた。
いや、今の一撃を身体を後方にずらすだけで避けた。

女か。男は相手の声質と体躯から女であると読み取っていた。
マントで身を隠していたが戦闘に入り軽装備を纏っている事が良く判った。それなりに高いものだろう。男は軽鎧に刻み込まれる装飾からそういった予測をたてた。
良い所のお嬢さんか。まさか、この腕で騎士というわけでもないだろうに。そんな事を考えている男であった。

女剣士が決して下手ではないという事も理解していたが、対する男は数十年という経験がある。圧倒的な差であった。さらに薄明かりの中で戦っているのだ。
辺りには木々が生い茂っている森の中。男はため息をついた。恐らく実戦自体は殆ど経験のない剣士。男はそう結論付けた。

「貴様!」

挑発と取られてしまったようだ。女剣士は飛び込んでくる。どうしてこんな事になってしまったのだろうか。男はその事でため息をついただけであったのだが、都合が良い。

事情を話そうとしたのだが、問答無用で斬りかかって来たために殺す気だったが、あまりにも散漫な攻撃に拍子抜けしてしまった。すぐにでも殺せたのだが、初太刀までの身体の動きからしてその気も失せてしまったと同時に哀れとすら思った。

この森にはギルド指定区域に該当し、危険な固有指定のついている魔物が生息する地域である。ランクと言う評価付けがなされている魔物が多いために目の前の女剣士の腕前では立ち入りすら規制されてもおかしくは無いはずだったのだが。

男としてもこの森に入るのは嫌であったが、この森を抜けるとギルドが公式に足を踏み入れていない事になっている山岳地帯に出れる。そして、男はそこに住む一族に用があったのだ。男は元々、合法的にここへ入ったわけでもないのだが、森全域を管理できるほどギルドは膨大な人員を保有しているわけでも管理したいわけでもなかった。女剣士は上段から振り下ろすが男はそれを肩で止めた。

「なっ!」

驚きの声をあげる。男は女剣士の斬り付けが入る寸前に相手の手を押さえていたのだ。
そんな芸当は普通できるわけはずもないが、男からすれば女剣士の攻撃が遅いために、一歩踏み出す余裕があり、それを行っただけに過ぎなかった。
加えて、女剣士は腕だけで剣を振っている事が良く判っていたのだ。身体の軸がずれ、身体が浮き、地にどっしりと足が着いていない。あまりにも脆い。

だが、逆にそれが男の好奇心を擽った。女剣士が身体を強張らせている内に、腕を持ち、足を払い投げる。剣を落として地に伏せる女剣士。それに歩み寄る。

「こ、殺すなら殺せ!」

この子。可愛いな。男はそんな事を思った。元から可愛い顔だな、等と考えてはいたがどうも、この子は憎めない人間なのだろう。男はそう解釈した。

一先ず、男は危害を加えないと言い、女剣士の隣に座った。男は経緯を話す。ある依頼でこの森の先に行く必要があるためにここで野宿をしようとしていた。
そうしたら貴方が襲い掛かってきた。と相手にゆっくりとわかりやすいように適度な嘘を混ぜて喋った。

「すまない。」

女剣士はそう言い、頭を下げた。どうやら、相手も話の判る相手のようだ。男はその事でほっとした。融通の利かない人は苦手だったのだ。自己嫌悪のようなモノである。

女剣士の名前はエーファといい、この森に来たのは武者修行。という嘘をついていた。男は良くそんな嘘をつけるな。と思いつつもそのまま話を進めた。
襲ってきた理由は依頼だったようだ。これ自体嘘ではなかった。
この周辺を管轄するギルドから盗賊討伐依頼が出ていたのを知っていたためであったが、その依頼には制限があり、その参加制限は厳しかったはずである。その事で何かあって嘘をついたのだろう。

一先ず、食事をエーファがしていなかったようなので、先ほどの焚き火跡でまた火を焚き、料理の準備をさせた。
男は既に済ませた後だったので、寝るだけだとばかりに、木に登ろうとする。男は木に登って寝るつもりだったのだ。
エーフェが木で眠るのか。と呟いていたのを聞き、男は丁度体重に耐えれそうな枝が複数あるので、誘ってみると一つ返事で乗ってきたために、二人分の作業を始める。といっても万が一のために命綱をつける程度であった。エーフェは食事が終わったら登ってくるので、付け方だけ教えたのだが、エーファが何故か男にやたら話かけてくる。

「何処出身なんだ?」
「ギルドに所属して長いのか?」
「こういった事には慣れているのか?」
「あの身のこなし凄いな。」
「魔物はどれくらい倒したんだ?」
「辛かった事はあったのか?」

兎に角、色々と聞かれてしまった男は、うんざりしながらも助けたのだから責任を持とうと考えていた。
どうにも、男にはこのエーファを殺す自信がなかった。この手の人間は非常に殺しにくいというのを男は知っていたのだ。

下調べの段階でこういう人間だとわかると男は憂鬱になる。男にとってこういった無邪気で天然気質な人間は非常に自分を癒してくれるからだった。
金の掛からない殺しはあまりしない上に、このような性格。

襲撃した事に対して非常に後ろめたい気持ちを持ちながらもとても強い謎の多き男に興味を抱き、興味津々といった顔色。
男にとって、好きな部類の人間なのは明らかだった。しかし、一つの懸念がある。
過去、こういった人間に関わると碌な事がなく、また付き纏われやすい傾向があったのだった。
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魔王と勇者と暗殺者 第五話

カウンターに採取してきた植物と狩猟した魔物の牙を詰めた袋二つを置く。受付をしていた男は無言でそれを受け取るとプレートをフードの男に手渡した。順番待ちのプレートである。

植物は全て本物で使えるモノなのか。魔物の一部は本当に魔物のものか。牙ならその牙は使える代物なのか。
依頼主が規定した長さないし重さがあった場合はその重さに合格しているか云々。非常に多くの項目を通って初めて依頼は達成される。
このプレートはその整理券である。一日で終わる時もあれば三日かかる時あるので、自分の泊まっている宿で過ごして毎日、報酬授与ナンバーを掲載する掲示板を見に来るのである。

男はギルド内部にある休憩所で休みつつ待つ事にした。取り合えず、今日は大手の持ち込みはないようなのでいくらか速く済みそうな空気を感じていた為だ。
椅子に座り隣接される軽食屋で買った飲み物で喉を潤すと男はため息をついた。嫌な情報しか入ってこない。何でも、各国で勇者を擁立して魔王退治に出陣させるという動きがある。
男は感知を付けられた時に有象無象が言っていた事を思い出していた。あれは本当の事だったのか。と。

勇者についてはまだ噂程度では人物像云々は見えてきていなかったが、男は過去において勇者という存在が実在している事を知っている。この事から、今回の勇者擁立は事実だろうし、それなりの訓練期間を設けて出陣させるのだろうと男は予想していた。

実際、今の所見かけていないのが幸いしたのだが、何故、自分達がこんな事をしなければならないのだろうか。という素朴な疑問が出てきた。
勇者が居るのなら、ソイツらに任せれば良いのに。何故だろう。手伝いでもさせるつもりなのだろうか。

もしかしたら他の連中の中には接触している所もあるのかもしれない。難儀な事だ。男は何処か遠くを見つめてしまった。

治癒者については噂の立つ治癒者を何人か見つけて地元民に金を渡し探りを入れてもらったが、結局全て駄目だった。
既に息が掛かっているので男が行っても無駄なのだ。大金を積もうが、相手は国家。ただの平民が勝てるはずもない。

男は席を立つ。プレートナンバーを呼ばれたためだ。予想以上に速かった。男はそんなことを思いつつ、報酬金を貰い、後にする。一つだけ気になる事があった。

治癒者の情報が意図的に流されている気もする。恐らく、そこに群がった有象無象を殺しているのだろう。既に篩い落としになっている。元々は非合法の荒くれ者の集まり。殺そうが害悪の駆除でしかない。

そんな輩を集めて正義の味方ごっこ。嫌な事を考える者が居たものだ。それでも、男は歩みを止めない。一つ、心当たりがあった。思い出したのはつい最近で、それも魔物を狩っている時だった。忘れていた。純粋にそう思いながらも、男は屋台で肉串を買う。

向かうにしてもそれなりに準備が必要だと感じながらも、遠い昔の自分を思い出し懐かしむ。肉串をほお張りながら明日にでもこの国を出るために宿へと戻っていった。
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魔王と勇者と暗殺者 第四話

情報を集めなければ成らない。そう思うにも、身体が言う事を聞かない。男は気だるさを全身に纏いながら、街を歩いていた。

自分の家に帰るのも億劫になってしまっているのは、己の身体が常に監視されているからだ。期限は一年。長いとも言えない年数だった。
王族関係者の暗殺等には実際に下見や懐柔の策を行い、人物の行動も把握せねばならない。そのために、半年以上の情報収集も普通に行われる。

扇動を行った男は三ヶ月の洗い出しを行ったのにも関わらず、周辺人物にレアスキル持ちが居る事を調べる事すら出来なかった。
男は最寄に見えた食堂に入る。すでに昼をすぎていたために、閑散としていたが男にとっては好都合であった。飲み物と軽食を注文すると窓際のテーブルに腰を落ち着ける。

気になる事は一年を過ぎた場合、自分の命はどうなのか。それが問題であるが、果たして探知、感知魔法に殺傷スキルを付与できるかどうか。
男の知る限り、そんな事をしでかす輩を知らない。情報を知る事も仕事上は大切な事なので、書物は読み漁った節があったためだ。一般常識では魔法やスキルに別属性は追加できても別系統を付け加えることは出来ない。それが勿論当然なのではあるが。

男は頭を垂れてフードの上から頭を掻く。王室関連は判らない。血による固有魔法。レアスキル。あっても不思議ではない。男は運ばれてきた軽食を口に運ぶ。

当分は治癒者を探す事が目標になりそうだ。男は飲み物である果実酒で喉を潤す。ただ、登録されている治癒者。名の知れた者も除外か。
男はそう感じつつ、窓の外を眺める。既に男と同じ結論に達し行動している者も居るだろう。
それはこれらの厄介を背負わせた連中も把握しているだろうし事前に対策も練っているだろう。だとしたら、埋もれた治癒者を探さなければならない。

少なくとも、国家に顔と居場所が知られていないような人物。男の組織にも治癒者は居るが、駄目だろう。組織が男を身売りした時点でその選択肢は無い。

この街で聞いても、駄目だろう。王都周辺、大きな街。今回の件にどれほどの国家が関与しているか。それから調べなければ無いが。

男はお金をテーブルに置いて、食堂を出る。その程度は簡単な事だ。既に噂や民衆の話し声からある程度は絞れている。
まずはこの街を離れて、村から村へギルド支部から支部へ。

久しぶりに、真っ当な人殺しをしながら、情報収集と路銀稼ぎ。男はそう決めると街を出るために移動を開始した。
最低限の武装と衣服であったが、現地調達も悪くは無い。男は最近にしては珍しく苦笑いを浮かべながら、歩を進める。前向きに考えないとやっていける自信が男にはなかった。
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魔王と勇者と暗殺者 第三話

成功報酬は要人相場の10倍。それがどんなに無意味な数字か。
男の頭の中は、死に対する相応の対価の脆さに酔っていた。依頼主はよほど金を出したくはないのだろう。男の肩が明らかに下がった。無理に肩肘張るのも嫌になったのだ。

男の周りには剣を抜刀状態で握る兵士が4人。ひし形の陣形で男を取り囲み、さらにその4人の前後に槍を持った兵士が2人一組で4人。
綺麗に取り囲まれながら、磨き上げられた床と、清々しいほど晴れた陽気が大きな窓より降り注いでいる広く、長い廊下を歩んでいた。

やがて、開けた場所にでる。それは室外であり、男は見下ろす形になっていた。
城壁が囲む内にある砂を敷き詰めたような広い場所であり、有象無象の、男女が集まっていた。
男は目立ちたくなかった。今さらであったのだが、それでもその考えに従いたかった。
だが、兵士が全てを台無しにしていた。有象無象どもは奇異の目で男を見つめている。

「おい、なんだあの野郎は。」

「しらねぇ顔だぁな?」

「勇者って感じでもねぇしよう。」

「だが、見ろよ。あの兵士の鎧。」

「あぁ、ファンベルンの王立騎士だぜ。」

「1騎10兵の実力といわれる野郎が4人に衛兵4人だぜ?」

「本当に、何者だ…。アイツ。」

逃げ出したかった。男はこういう視線が酷く嫌いだった。そして、人ごみが苦手だった。
誰かに見られて人ごみに入るのは気分が悪くなる。誰かに話しかけられながら、人ごみを移動するのは苦痛でしかない。

男の嫌いな場面がこの空間に散りばめられている。男にしたらここは拷問の場でしかなかった。
もう、男がどこに紛れこもうと大衆の記憶に刷り込まれている。これは今日一日で記憶の闇に葬り去られるのは不可能だ。
まだ、兵士が居ない状態で入るのなら出来た事だったのだが。男はもう真っすぐ有象無象の顔を見る事すらできなかった。

兵士は男に降りろといい、有象無象に混じらせた。
男はよろよろと壁にもたれ掛った。既に不特定多数の嫌な視線を全身に浴びているために気分が優れないためだ。
それを眺めながらも多くの有象無象は男自体を警戒する事を辞めなかった。それだけ、ここに集まったのは腕の立つ傭兵や戦士、ギルドやハンターなのだろう。

やがて、静まれ。という大声の中、一人の甲冑を纏う男が城壁に登場してくる。すると、有象無象がにわかにざわめいた。
男もまた、嫌な顔を隠そうともせずに、その男を眺めた。

「貴様らに、依頼を受けてもらう。拒否権は無い。既に貴様らがここに居る時点で権限を持たない!」

誰かが、喉を鳴らした。

「貴様らに要求する事はただ一つ。魔族の打倒!!それのみである!」

「手段も限定させてもらう。民草を傷つける行為が露見したものは、見つけ次第殺す。経済などに打撃を与えた場合も同上。犯罪行為を行うのも同上。」

今さら何を。誰かがそうつぶやいた。皆がそれを承知。せざるをえない状況でここに集められてきた者が大多数であったのだ。
この口上自体が無意味。これはまるで、有象無象を眼下に見つめ、優越に浸るためだけの茶番。

「魔王討伐の成功報酬はスターク金貨100枚。名の知れた者を打倒したものにはギルドから正式な報酬も支給される。」

貨幣はもはや意味がなかった。恐らく、払う気もあるかどうか疑うべきであり、自分を含めた全員に探知、感知型の位置認証アイテムによる束縛を行うつもりだろう。生き残る事を考えると非常に危うい立場に居る。男は憂鬱な気分が吐き気と共に全身を駆けるのを感じた。

「期日は一年。明日より開始とする。尚、逃走しようとしたものは殺す。既に貴様らには探知の永続アイテムをとり付けさせてもらっている。」

男は右腕に光る腕輪を見る。嫌な予想ほど当たるものである。

「さらにここより出ていくまでに、感知魔法をかけさせてもらう。」

その言葉通り、男達が、質問すら許されず、追い立てられるかのように城を出される際に、人数分の魔術師が一人一人に感知をかけていった。
その人数に男は驚きながらも、人間の権力者もとうとう手を繋いで、部外者の打倒に乗り出したか。とため息をついた。

この国に在籍する魔術師よりも多いということは優秀な魔術師を各国から集い、今回の騒動に間に合わせたのだ。
感知、探知系統の使い手は重宝するが、それがレアスキル扱いになっている。それが数百名というのだから、そういうことになるのだろう。

人間達が長く争ってきた中で、ある意味、初めての全国家による不可侵条約の締結。男は、そんな事を町を歩く中で耳にはさんでいた。どうでも良かった。
まずは自分がどうやって生き残るかを考える事にした。魔族といっても社会を形成している者もいれば本能に忠実で人間も動物も好き嫌いせずに食べる輩も居る。

漠然と魔族の打倒などといっても無尽蔵に湧くようにしか想像できない奴ら相手に数百名程度の有象無象でどうやって打倒のするのか。頭の痛い話であった。
連携行動をとる仕事仲間を巻き込むわけにもいかない。組織の存続のために自分は生贄にされたのだから。男は思案する。あそこに集まった者は皆そうだろう。

非合法なギルドから犯罪者。中には凄腕ハンターもいたようだが。彼らには別途依頼があるのだろう。
誰が好き好んで、王国や帝国の王を殺すよりも難易度の高い依頼を金貨100枚で受けねばならないのか。
本当ならバッカス純金貨500枚はもらいたい所だ。男はそう思いながらその場を後にする他なかった。
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魔王と勇者と暗殺者 第二話

数日前に扇動行為を行った男の殺害。楽な仕事ではなかった。男は静かに紙に何かを書き止めている。
蝋燭の淡い灯が儚く男の居る一室を照らしているが見えるものはそう多くなかった。ベッド、イス、テーブル、そしてその部屋で一番大きなものはクローゼット。
男の部屋にはそれらが綺麗に並べられている。やがて、男は書き終えると、部屋を後にする。

廊下に出ても、うす暗さが変化する事無く、ただ蝋燭の光が道を照らすだけであった。男はその道を迷うことなく歩を進め、扉の前で立ち止まった。

一瞬の間を持ち、開ける。目の前にはテーブルが置かれ、書物が散乱していたが、椅子に座る3人の女性。中央に対峙するように座るが一人、左右に一人づつ。
彼女達はその事に気にしているそぶりも見せず、まして彼女たちは男を見るわけでもなかった。

「貴方にしては、しくじったようね。」

中央の女性が男に声を掛けていた。

「情報に無い者が居た。」

疲れている。そうあからさまにため息をついた後、男は喋る。

「臨機応変にが貴方の良い所だったはずだが。」

対峙する女性が口を開いた。室内でもフードを被るその姿は女性と判断するには声質以外では難しいだろう。

「死者の眼球から死ぬ直前の姿を見る。いくら臨機応変でも想像できない事態が起こるという事だ。」

「レアスキル持ちを考慮しろというのは無理なのは判るわ。」

「……。」

「けれども、貴方の仕事に支障が出るだけなく、我々にも影響が出る。」

「罰金?」

「それもある。」

「軟禁?」

「それは、ない。」

「無い?」

「別件。」

「ちょっと待って――。」

「拒否は不可。」

「……。」

「内容は、これ読んで。」

「―――本気か?」

「えぇ。」

「偽物の類。」

「ないわ。」

「何故。」

「見た事ない?」

「………。」

「書状の用紙に、サイン、押印。全て本物。」

「難儀な…。」

「えぇ。貴方のお陰。」

「選択肢は一つか。」

「えぇ。判り切っている事をいうものじゃない。」

「………。」

「臆病風?」

「あぁ。危険が高い。生存率の低い仕事はなるべく受けたくはないのが本音だ。」

「貴方、良くそれで仕事できるわね。」

「楽しいからな。」

「職人の鑑だな。でも、言ったはずよ。」

「判っている…。」

「ほら、行った。そして死んできなさい。」

男はその言葉を聞いた後、その空間から脱出した。男は部屋に戻るとクローゼットを開け、そのクローゼットの中から、複数個の箱を取り出し、中身を取り出す。
布に包まれた品々は皆、刃物を持つ凶器であった。男は腕に、腰に、太ももに、ふくらはぎに、踵に、胸に。装備していく。
全身に装備される凶器の数々は音も立てずに身体に張り付いているかのように静かであった。

やがて、男は服装を変える。基調をこげ茶のフード付きのものを着込む。次に、男は顔に手を伸ばし、髭を剃り始める。
もっとも、顎髭に少しばかり生えていたものであるが。男は一通りの身支度を整えると部屋を出た。向かう先を考えてため息が思わず漏れてしまう。
予想外の事には慣れていると思っていた。それが甘かったと。 駄文同盟 にほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ bnr.gif image113.gif 小説・詩

魔王と勇者と暗殺者 第一話

人々の視線が一点の空間に立つ存在に集う。群れる者どもを誘う言の葉。空間を侵食していくのは論の融和。共有、共存、多数。甘味の虜になる盲者の乱雑な集いは熱を帯びて場を焦がす。

ただ、その熱の中で冷淡な瞳が二つ壇上に挙がり、恍惚と熱意に溢れる男を見据えていた。その瞳はやがて瞳が暗く落ちていく。周りに溶けるかのように、色調の同じ布で全身を覆い隠し、フードを深く、それでいて、不自然に思われないように、虚ろな空気を纏う。浮浪者。怠惰な者。

その男を視界に捉えた者はそういった考えを巡らせることもせず、ただ目の前に起こっている変革という流体金属のねばりつくような熱気に犯されているだけであった。

フードの男がゆったりと、それで居て確実に壇上の男に近づいていく。壇上の男は気付かない。その姿は眩しく、人々が酔うにはお誂え向きな出で立ち。

彼の眼には自分の言葉が民衆の心に届き、今まさに同志となる者たちを作りなしているという思いに浸っている。たかだか、一人の挙動。如何に高段より見下ろしていようとも、まして異質でもない気配に気づくはずもなかった。

刹那、フードの男が居る場所より右手数メートル先で女性の悲鳴が挙がった。

その場の熱気を切り裂く声に皆の視線が移り始める。その時にはフードの男は既に走っていた。5歩進めば己の握る刃の間合いに入る距離まで詰めた所で男達は目を合わせる。

咄嗟に身構えようと身体を動かす壇上の男にフードの男は左腕を伸ばし握っていた左手を伸ばす。

繰り出された曇り空のような暗く無慈悲な刃を先に尖らせる矢が壇上の男の胸を突く。その勢いと身体に異物が入って来た事の激痛よりも状況を把握していないがために、頭はどうしてを連呼する男の身体は言う事を聞かず、ただただ態勢を崩す。

その哀れな姿を晒す壇上の男にフードの男はとても滑らかな動きでもって右手に隠し持っていたナイフを喉に突き刺した。瞳孔の開いていく瞳が冷淡で無表情な顔を見つめていたのは一瞬で、フードの男はすぐに壇上を飛び降りる。

フードの男は先ほど、悲鳴の挙がった方角に走り、その場を目撃した視線はただ、その男が群衆に紛れて見えなくなるのを茫然と眺めているだけであった。

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