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短編小説 前と僕と後 『前と少女と僕』

短編小説 前と僕と後 『前と少女と僕』

 僕が、涼子と再び再会したのは一週間後で、僕は本を返却しに大学の図書館に向かった先だった。彼女は、文庫の小説を読んでいたし、僕は僕で返却したついでに、図書館にある持ち出し禁止の本でも眺めようかと、図書館の奥にある禁書棚へ歩いている時だった。
 本当なら、僕と涼子は気付くはずも無かったけれど、お互い何かに集中してはいなかったし、何より、僕の足音が濡れていたので変に反響していたのが原因だ。涼子は顔を挙げて、気まずそうに顔を少しだけ顰めて、僕は僕で、声を掛けるべきなのかを少しだけ悩む事になった。結局、それだけの事だったけれど、涼子は再び本に視線を落として、僕も奥へ普通に歩いていく事が叶ったのだから問題は無かった。
「ねぇ、何で何も言わないのよ」
 問題は無いと思っていたのだが、涼子は僕が通り過ぎた後、わざわざ僕の居る所まで歩いて来て、律儀にそう聞いてきたのだ。僕は少々、涼子という少女の性格を、見直す必要があると思った。
「もう、過ぎたことじゃないかな。あの時、本当に迷惑だった。だけど、腸が煮え繰り返るほど、怒り狂うわけじゃない。些細な事だよ」
 あの後、スキンヘッドに殴られて、財布からお金でも盗られていようものなら、ここまで平静かつ大人な対応は出来やしないし、絶対に許す気はなかった。けれども、そんなことにはなっていない。だから、もう僕にとってはどうでも良かった。



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ジャンル : 小説・文学

短編小説 前と僕と後『僕とスキンヘッドと後』

短編小説 前と僕と後『僕とスキンヘッドと後』

 陳腐な話をされた。それもスキンヘッドで強面の男が、失恋を経験して傷心して自分の恋愛話を語り始めたのだから、僕は一体どんな顔をしてその話に相槌を打てば良かったのか今でも判らない。ただ、僕はぽつりぽつりと吐き出していくスキンヘッドを最寄の喫茶店に連れ込んで、一杯四百五十円のコーヒーを奢る事になってしまっていた。
「涼子は、本当に可愛くてな」
「そうですね」
 僕は、水っぽいコーヒーを啜った。
 店内で流れているのは雰囲気にこれでもかと言うくらい似合わない、今人気が出てきているアイドルグループの曲だった。店内は薄暗いながらも落ち着いた雰囲気で、僕は何ともなしに、これは裸電球みたいな安心感があると思っていたけれど、この曲で全てが台無しになっていた。
「アンタも可愛いと思ったのか」
「否定はしませんよ」
 僕が素直に想いを吐き出したのは、スキンヘッドの会話に興味が無かったのもあるが、喫茶店のマスターも流れている曲に顔を顰めていたのを見て、これは壮年のマスターの趣味で無い事に、変な安堵を覚えていたからだった。
「満更でもなかったのか」
 少し、棘のある声に聞こえ、僕は自分の顔が引き攣るのを感じていた。本音を言って良いものかと逡巡したが、どうにもスキンヘッドが怒り出すように思えなかった。
 まじまじと見つめたわけでもないけれど、出会った時の野性的な怖さは微塵も感じられなかった。



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短編小説 前と僕と後

短編小説 前と僕と後

 自分の行動を見直そう。そんな切欠なんてものは、大抵の出来事において運が悪いものだと、僕は感じている。そんな時に、神様なんて居るかどうかも判らない存在を恨んでしまう僕は、きっとそうした実像の無いものに有耶無耶ながら起こった物事を押し付けて、自分という体裁でも保っているのだろう。
 そんな変に哲学的な考えをしなければならないほど、僕は今置かれている状況に嫌気が差していた。とにかく、午後から大学の講義に参加するため、三年間通い慣れた、学生通りと言われる大学へ続く一本道を僕は駅からずっと歩いてきたはずだった。
 今も、視線を少し上に向ければ坂道の終着点が見え、小さくもはっきりと大学の門が開かれている。
 横を向けば、交通量の少ない自動車道が通りの真ん中を貫き、歩行者天国でもないのに、学生らしき若人達が、跋扈しているのを見る事が出来た。
 彼らは僕の置かれている状況を敬遠しながらも、好奇の色を隠そうともせずに見つめては去っていく。
「付き合ってるんです。私達」
 僕の斜め後ろへ勝手に陣取りながら、右腕を妙にぎこちなく握る一人の少女が言った。
 僕と少女の目の前には、スキンヘッドで目つきの悪い、如何にも不良だと言える風体をした男が居て、少女はそのスキンヘッドに向けて喋っていた。



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