短編小説 前と僕と後 『前と少女と僕』
僕が、涼子と再び再会したのは一週間後で、僕は本を返却しに大学の図書館に向かった先だった。彼女は、文庫の小説を読んでいたし、僕は僕で返却したついでに、図書館にある持ち出し禁止の本でも眺めようかと、図書館の奥にある禁書棚へ歩いている時だった。
本当なら、僕と涼子は気付くはずも無かったけれど、お互い何かに集中してはいなかったし、何より、僕の足音が濡れていたので変に反響していたのが原因だ。涼子は顔を挙げて、気まずそうに顔を少しだけ顰めて、僕は僕で、声を掛けるべきなのかを少しだけ悩む事になった。結局、それだけの事だったけれど、涼子は再び本に視線を落として、僕も奥へ普通に歩いていく事が叶ったのだから問題は無かった。
「ねぇ、何で何も言わないのよ」
問題は無いと思っていたのだが、涼子は僕が通り過ぎた後、わざわざ僕の居る所まで歩いて来て、律儀にそう聞いてきたのだ。僕は少々、涼子という少女の性格を、見直す必要があると思った。
「もう、過ぎたことじゃないかな。あの時、本当に迷惑だった。だけど、腸が煮え繰り返るほど、怒り狂うわけじゃない。些細な事だよ」
あの後、スキンヘッドに殴られて、財布からお金でも盗られていようものなら、ここまで平静かつ大人な対応は出来やしないし、絶対に許す気はなかった。けれども、そんなことにはなっていない。だから、もう僕にとってはどうでも良かった。
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