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長編小説 山賊は悪党で 完結

長編小説 山賊は悪党で 弐四 完結


 町と町を結ぶ街道には様々な種類がある。平原を真っ直ぐ通る街道もあれば、曲がりくねった丘陵地を駆け抜ける街道。その中には勿論、山道だって存在する。山間にある大きな炭鉱の町を繋ぐ山道に、山脈を抜けるための山道と、色々だ。
「よぅ、ちょっと止まってくれ。死にたくなかったらな」
「はいはい。止まりますよ」
 ニールの町は他の町から遠く、山道と平原を貫く街道を往来する必要があった。その道中は、出発する町付近には賊の脅威が今だ消えておらず、平原や山道に入れば腹を空かせた獣が襲い掛かってくる心配もあった。
「聞き分けの良い奴は大好きだぜ? まぁ、安心しろよ殺しはしない」
そうした街道は、町々を治める領主である貴族や国を治める王が管理しているもので、町から近ければ騎士団や衛兵が巡回し、警備をしている。
 商人は町に金と物をもたらし、国や領主に利益を与える。その商人は街道を通って町を行き来する大事なお客様だった。そんな商人達を護るために、領主や国も手を回している。
 それでも、長い長い街道全てを護りきれるわけでもなければ、町によっては街道に手を回せるほどの兵員すらままならない。そういう事態に陥っている領主の方が圧倒的に多い。
「商人様よ。貴方様は、何処まで行くのでしょうかね?」
 だからこそ、賊徒と呼ばれる無法者がのさばり、いくら国や領主が討伐隊を出して討伐しようと消える事は無く、居るところには居て、居ないところには居なかった。
「キリバスの町ですよ。あそこは交易が盛んでしてね、何でも西から良質な毛織物が入って来ているそうで。一度本拠に戻ってから妻と従者でも連れて向かおうかと思いまして、こうして馬車に揺られているわけです」



完結しました。

なんというか、広げて畳んでいませんけれど。
この後はまぁ、ぶらぶらと旅していくんじゃないでしょうかね。

続きの方に原案載せておきます。
起承転結でくみ上げてはいません。

http://ncode.syosetu.com/n7607p/24/

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長編小説 山賊は悪党で 弐参

長編小説 山賊は悪党で 弐参

山賊達がまず行った行動は、ニールの町から姿を消す事だった。ヘレナとクレアの静止も聞かず、山賊達は城壁に上り、そこから飛び降り消えて行った。
 追う者は居らず、誰もが呆気に取られた逃走劇だった。今後、誰もが山賊に賛辞を言う機会は訪れる事が無く、町人の中からも、彼らが町を救ったという事に対する素直な気持ちは薄れていった。


 ヘレナとクレアの初仕事は、ダニエルが山賊に殺されてから、二日後。
 ニールの領主城では盛大な葬儀が行われた。謀殺されたラインハルト・グーテンベルク、そしてネーナ・グーテンベルクの葬儀は、喪主を双子姫の長女、ヘレナ・グーテンベルクが粛々と執り行われていった。
 涙を見せまいと顔を強張らせる双子姫に、民衆は新たな統治者への期待と、支えていく決意を胸に、墓標の前で膝を折り、頭を垂れて行った。
 墓標には、聖都教で用いられる形式を取った。不満はある。だが、聖都教という教えに罪は無い。ヘレナの言葉に、クレアは頷いた。それを民衆が文句を垂れる事などありはしなかった。
 葬儀が終われば、次はヘレナが正式にグーテンベルク家の当主になり、領主となった。王都へは書状が届けられ、後日。任命官が叙任式を行うためにニールの町へとやってくる。
 人々は気持ちを新たに、先に起こった事件を忘れる事無く、この町の緩やかなる発展を目指し今日もまた、働き。仕事が終われば酒を飲み、眠くなれば家に帰り、ベッドの中で、眠りに就く。そして、また朝を拝み、一日を謳歌していく。



最後の締めがいつも、上手く行きません。
次で一応最終話。

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長編小説 山賊は悪党で 弐壱-弐弐

長編小説 山賊は悪党で 弐壱-弐弐

 誰もが喜び、誰もが声を挙げた。それは、今まで溜まっていた様々なものが形を変えて吐露された結果だった。人々の鬱憤が、正当化された悪へと向けられた時、人々は新しく誕生した英雄に酔いしれ、悪が滅んだ歴史的な瞬間に立ち会えたという悦喜(えつき)に身を震わせた。
 今だけは、ダニエルでさえ、この世界が自分自身を受け入れた事を疑いはしなかった。いや、確信を得た。それほど、彼の顔は狂喜していた。その顔を醜く歪ませている様は、英雄に似つかわしくないほどに獣のような貪欲さを兼ね備えていた。
 処刑場の歓声は鳴り止まず、誰もがこの処刑という祭りを楽しんでいた。その狂喜が渦巻く処刑場内で、ただ処刑を待つだけとなったヴァルトは、虚ろな瞳で目の前に広がる眩しい処刑場を眺めながら、不思議がっていた。
 てっきり、豚と一緒に宙に浮かぶとばかりに思っていたが、豚が前座扱いにされて、ヴァルトが見上げる先で今、宙にぶら下がっていたからだった。
 面倒そうに眺め続けるヴァルトには猿轡が咥えられていない。彼は非常に従順だったので、騎士も大して緊張せずにヴァルトの後ろに立ち、高台に向かわせる順番を待っていた。
 うるせぇな。
 ヴァルトはそんな独り言を呟いた。それほど、耳に堪えるほど、民衆の馬鹿騒ぎが凄かった。
 その様子を、次は高台から拝む側になるというのに、ヴァルトは妙な平静感に襲われている。それもそうだ。民衆の隙間から見知った男をヴァルトは見つけ出していた。
 本当に助け出そうとしている事に、嬉しさ半分、馬鹿な真似をと怒る気持ちが半分。ただ、感情を面に出す事はしない。
 裁判が終わった後、牢獄へ放り込まれた時に粗方、全ての思いでもぶちまけたからなのかもしれないが、ヴァルトは落ち着いていた。あっけらかんとしていてまるで、抜け殻のようでもあった。
 周りの騎士から見ると、ヴァルトは世捨て人に思えるほどに達観している姿に見えたようで、拷問は裁判の前の一回だけに留まっていた。それでも、ヴァルトの手の甲には烙印が刻まれている。罪を犯した者に烙印は押されるが、ヴァルトには右手以外にも、背中や腹に烙印を刻まれている。でっち上げの余罪を含めて、ヴァルトには今五つほどの罪があり、当然ながら処刑になったのだ。



http://ncode.syosetu.com/n7607p/21/

次回、最終回予定。 駄文同盟 にほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ bnr.gif image113.gif 小説・詩

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長編小説 山賊は悪党で 弐拾

長編小説 山賊は悪党で 弐拾

 人々の口から、振り動かす身体から沸き起こる喧騒が町全体を包み込んだ。
 領主城の広場は、すっかりとその姿を処刑場へと変えている。急造された木造の高台に釣り下がる二本の縄が弧を作り垂れている。
 処刑場の門前には数十を越える人々が集まり、衛兵が作り出す壁ごしから処刑を心待ちにしていた。
 誰もが願っていた。ある者は、好奇心に目を輝かせながらその処刑を今か今かと待ちわびる。ある者は、眉間に皺を寄せ挙げながら、何やら呟きながらも処刑台を見つめている。
 処刑の時が来た事を告げるような大きな歓声が挙がり、ダニエルが高台に昇った。後ろからカスパルが昇ってくるが、必死に抵抗しているようで身をよじっている。
「観念しろ!!」
 野次が飛ぶとそれに呼応するかのように、カスパルに向けて罵詈雑言が投げ掛けられる。
 よくも今まで騙してきたな!
 お前が俺の娘を攫ったんだろう!!
 カスパルが奴隷商人とも関わりがあった事まで露見していたので、民衆からの辛辣な声が押し寄せてくる。それはまるで大雨によって作り出された土砂を含む濁流の唸り声のような低く、それでいて地鳴りのような音となっていた。
「静まれ!」
 その喧騒を、ダニエルが治めていく。すると、その濁流は途端に姿を消していく。民衆はダニエルの言葉に、徐々に口を噤み始め、処刑の始まりを待ち始める。
 まだ小さなざわめきこそあれど、自分の声が届くと判断したであろうダニエルは大声を張り上げた。
「これより、カスパル・セレスタン・グラネストの処刑を執行する!!」
 鎖帷子の鎧にその堂々とした佇まいに民衆は魅入っているように、誰もがダニエルを見つめていた。



もうすぐ完結予定。

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長編小説 山賊は悪党で 壱九

長編小説 山賊は悪党で 壱九

 ダンの臭いをディックはきちんと嗅ぎ分けていた。だが、容易に姿を見せる事はしない。十二分に城門と距離を置き、違和感無く、まるで尿意が急に襲ってきた旅人を演じるダンが林の中へ隠れるまでじっと息を潜めていた。
「外部の手を借りる。ザックスという商人の馬車を故意に襲え、司教の処刑が始まった頃合いに町を立つ。城門を出たら即座に襲え」
 ダンは口早に言った。
「大丈夫?」
「商人だ。約束を疎かには出来んはずだ。それに、信用はできる」
「解った」
 ダンは布切れを落とした。
「判るな?」
「うん」
 それは、ザックスの身に付けていた衣服の切れ端だった。


 クレアが作り出すその空気と突き刺さった瞳。
 宿屋に戻り、山賊達と向かい合ってもザックスの胸の中にはあの時の茶番劇よりもクレアの存在が目に焼きついていた。
 三人の山賊は、ザックスの報告を待っている。口火を切るザックスの表情は柔らかい。
「首尾は上手くいきました」
「そうか」とダンは言った。
「こっちも大丈夫だぜ?」とユーリは軽口を言うかのようにあっさりと言った。
「処刑はいよいよ明日ですね」
 ボーは神妙な面持ちで処刑と言う単語を述べた。
「運命の日ってか。冗談きついよ」
「やるしかないです」
「そうだけどさ」
 ユーリは嫌そうに顔を歪める。本来ならば、絶対に請け負う事の無い仕事という事になる。だが、彼らはそれを行う。
「怖気づこうが、計画は実行に移す」
 ダンの言葉に、ユーリは手をひらひらと上下に振りながら、椅子に座りテーブルに右肘を置いて頬杖を作る。その表情には嫌々というものは消し去り、あるのはゆるやかな時の流れを待ち望む、まるで少年のような生き生きとした興奮が漲っていた。



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長編小説 山賊は悪党で 壱八

長編小説 山賊は悪党で 壱八

 軟禁というには相応しい環境の中で、双子姫は生活していた。外へ出る事は許されず、暫定領主の思惑のみで、外出が許可される。そこには自由は無く、要求される事を拒めば最愛の親族が死ぬ事になる。暗黙の了解にならざるを得ない現実を突きつけられながら、双子姫は憔悴していきながらも、まだ生きる事を諦めては居なかった。それでも、自らの意志では決して開く事の無い扉が開かれる時、二人は恐怖を覚え、震えずには居られない。どちらかが部屋を出て、どちらかが残される。
 開錠の音と共に騎士が二人、双子姫が軟禁されている部屋に入ってくると、赤いドレスを着込むクレアの腕を掴むと外へ連れ出そうとする。
「出ろ」
「ク、クレアを何処へ連れて行く気ですか!!」
 ヘレナの声は響き渡るだけで、屈強な男の羽交い絞めを脱する術は無く、ただ連れて行かれるクレアを眺めるだけだった。
「クレア!」
 再び、施錠の音が響き渡ると途端に静寂が舞い降りる室内だったが、声を殺しきれない嗚咽を漏らすヘレナの姿が小さく残された。
 残された者は連れ出された者が生きて帰ってくる事を願うしかない。



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長編小説 山賊は悪党で 壱七

長編小説 山賊は悪党で 壱七

その日の夜、ニールの町は何処もお祭り騒ぎとなっていた。それこそ酒屋から宿屋に至るまで、町全体は明日行われる処刑に沸いた。
 ある者は怒りを持って、ある者は人の死を楽しみにし、ある者は怖いもの見たさに処刑場へ行くつもりでいた。
「いやぁ、君達の芸は面白いね。さぁ、入ってくれ」
 ニールの町で随一と言われる高級宿には、その騒ぎに負けないほどの喧騒を引き連れてザックスが宿に入っていった。その姿に亭主は苦笑いを浮かべて応対する。なんといっても、奥の間を三つも買った金持ちだったので、粗相の無いように対応するのは当然だった。
「失礼します!」
 後ろからぞろぞろと入ってくるのは如何にも芸人のような者達だった。色彩豊かな衣服を纏い、道化のような格好に、亭主もザックスの気分が良い理由をしっかりと理解した。
「亭主、私の客人だ。部屋を借りさせてあげてくれ、金は私が払うよ」
「ザックスさん。今日はえらく上機嫌だね」
「えぇ、久しぶりに楽しい思いが出来ましてね。これからさらにと言う所ですよ」
「騒ぎすぎないで下さいよ? 奥間と言っても、一般のお客様も居られますので」
「判っているさ! さぁどうぞ」
 そのやり取りを行うとザックスを先頭に奥の間へ進んでいく。受け付けの横を通れば、中庭に出る。ここから奥に行った別館が奥の間と言われる高い宿となっていた。
「ザックスも案外と役者だな」
中庭に造られた屋根付きの廊下を歩きながら、ダンは小さく呟いた。真っ青なローブと白い肌色が妙に似合っている。
「商人はいくつもの役を演じきるものですよ」
「勉強になります」
 ボーは髪を降ろして女性物の衣類を着こなしている。昼間にザックスと出会った時の服装であった。
「相変わらず、可愛いなぁ。ボーは」
「気持ち悪い声を出さないで下さい」
 ユーリの言葉に、ボーは顔を顰める。
「ユーリ」
「はいはい。そう睨まないでくださいな」
 ダンの鋭い視線にユーリは身を竦ませながら、廊下を渡り、別館へ入室していく。
 既に、ランプの蝋燭には火が灯り、暖かい光で室内を照らし出している。ザックスはしっかりと鍵を閉めて皆を適当な席へ誘う。



当初の設定だとザックスは一話以降出てこない。ガヤ要員だった。
当初、ボーは『私』が人称だったが、ザックス続投で『僕』に。

ヴァルトとダニエルの牢獄での対話や、投獄されている領主との会話なんて考えたけど、まずダニエルはそんな行動取るはずもないと思いバッサリ削りました。
領主はもう死んでます。一応、幽閉は機密扱いなのに、罪人と同じ牢屋近くにいるのもおかしな話ですし。

終盤やエピローグに苦心。
あっさり、かつ強引に終わる予定。
何でもかんでも最近の作品は強引に終わる気がする。

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長編小説 山賊は悪党で 壱六

長編小説 山賊は悪党で 壱六

 ニールの町は歓喜に沸いていた。人々の混乱はあったものの、双子姫は無事帰還し、諸悪の根源である司教は逮捕。共犯だった山賊の頭も捕らえられ、明日には処刑されるという知らせが町を駆け巡り、皆は安堵のため息を漏らした。
 ダニエル騎士団長は名実ともに英雄となり、暫定領主という立場ながらニールの町を統治する権利を握るようになったが、その事に誰一人文句を言う事は無かった。
「ヘレナ様とクレア様をダニエル騎士団長たちが救ったそうだな」
「流石は騎士団長だ」
「まったくだ」
「それにしても、司教様が山賊と手を組んでいたとは」
 そのような話で町はとにかく盛り上がり、酒屋などは日が出ていようがそれなりに人が入り、英雄の話題に花を咲かせていた。
 商人の中でも同じ話を聞く。ザックスはそのような場から離れ一人、宿に向かい歩を進めていた。商談とは名ばかりの世間話の帰り道だったが、ザックスの表情は沈んでいる。
 町行く人々が英雄の話に盛り上がり喜々としているだけにザックスだけ取り残されているように存在とその顔は浮いていた。
「ザックスさん」
 その時、ザックスを呼び止める声が背中から聞こえてきた。宿屋はもう目と鼻の先だった。
「おや、貴女は?」
 振り返ると見た事無い美少女が佇んでいた。町娘の服装だったが、肩まで伸びる赤茶の髪の毛と揃えているように、真紅のローブを着込み、袖を切り揃えた薄い緑の衣類を纏っている。頭には純白の布をカチューシャで止め、胸元に光る少々大きめのネックレスが無地の衣類に彩を加えるかのように自己主張を欠かしてはいない。
 思わず、ザックスは目を奪われる。十六、七くらいだろうか。ニールの商家にこれほどの美女が居たのかとザックスは思った。



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長編小説 山賊は悪党で 壱五

長編小説 山賊は悪党で 壱五

冒頭

 ヴァルトは手枷足枷を嵌め込まれて、ダニエルの前に差し出された。
 進んでいく形式上の裁判に、ヴァルトは川の流れに翻弄される木の葉のようになす術も無かった。発言権があるわけではない。喋ったところで嘘だと断言されて、証拠や証言として認められる事は無かった。
 ただ、ヴァルトは力無く笑みを貼り付けて、当事者を抜かした茶番劇を見続ける観客となって成り行きを興味なさそうに眺めていた。
 ヴァルトにはヘレナが自分の無実を証明してくれるとは思えなかった。案の定、ヘレナのそばにいつも寄り添っていたクレアの姿が無い。
 ヘレナは苦しそうに顔を歪め、涙を溜めながらも目だけは絶対に反らさなかった。ヴァルトにはそれが何よりも嬉しいと感じていた。
 ヘレナの姿と居ないクレア。人質として取られていることを察する事が出来ないほどヴァルトは馬鹿ではなかった。
 粛々と形だけ進んで行く裁判は予定通り、公開処刑に落ち着き、閉廷する事になった。ヴァルトは騎士二人に連行されて居館の外にある牢獄へと入っていく。地下へ伸びる階段をしっかりとした足取りで歩くが、ヴァルトの表情は暗くまた痛々しかった。
 鉄格子で作られた檻の中に入れられ、施錠される甲高い音が地下に響き渡ると騎士二人の軽やかな足取りは遠くに解けて行く。
 残ったのは、何も無い静寂だけだった。
 目を瞑り事もせず、あぐらを掻いて座り込むヴァルトにはどうする事も出来ない。鉄格子を破る化け物じみた力を持っているわけでも、即座に助けて出してくれる凄腕の仲間がいるわけでもなければ、内通者がいるわけでもない。
 ただ、処刑される日を待つだけの時が、ヴァルトに訪れただけだった。
 それでも、ヴァルトは何かを考える。無気力で、生きる事に絶望して諦めたわけではないが、どうにもその思いは走馬灯のように、儚くも彩り鮮やかに過ぎ去っていく。 



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小説 山賊は悪党で 壱四

長編小説 山賊は悪党で 壱四

教会に踏み込んできた騎士団に信者は慄き、助司祭などは訳も判らずに拘束されていく。喧騒が混乱を呼び込むも、ダニエル騎士団長を筆頭に整然と教会関係者を拘束していく騎士達の動きは、無駄がなかった。
 やがて、奥の居館は包囲され、教会の周りは怒りをぶつける民衆が押し寄せると、待っていた衛兵が肉の壁となって暴動を抑え込んでいく。
「こ、これは何の真似だ、ダニエル!」
 自室に篭っていたカスパルは、丸々と太った身体を揺らしながら席から立ち上がると、ダニエルを指差して大声を挙げた。
 ダニエルは心底、呆れたように小さくため息を吐き出す。
「何の真似? 貴様が双子姫を攫った事は既に知られているぞ!」
「う、裏切ったな!!」
 カスパルはそう捲くし立てたが、カスパルは笑みを滲ませる。
「何を言う。まだ、その狡猾な頭を使うか」
「な、何を――!!」
「拘束しろ!」
 声を挙げ、首を動かし騎士をカスパルに向かわせる。抵抗らしい抵抗も出来ずに、カスパルは拘束され、床に倒されて手枷を掛けられる。
「や、やめろ。私に触れるな! 私は司教だぞ、聖都教の司教様であるこの私に容易く触れるでない!!」
 今になってようやく暴れ始めるも、屈強な騎士二人に連行されていく。ダニエルは尚も叫び続けるカスパルの口を塞げと残っていた騎士の一人に命令する。
「金に溺れた亡者め」
 侮蔑の混じる言葉と苦々しい顔であった。
「証拠品を応酬しろ」
 命令された騎士達は司教だった男の室内を物色し物品を木製の箱に詰めていく。高級そうな調度品や置物から、書状や本に至るまでを運び出される。
 その行為は、居館内全てに等しく行われ、押収が終わった夜は更けて月が大きくもはっきり見えていた。





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